動物看護士が教える犬が吐くのはどうして?

 

おうちでわんちゃんを飼っていると嘔吐してしまうこと、ありますよね。

いつもは元気な子が急に吐いてしまうと、どうしていいのか分からず慌ててしまうこともあると思います。

そもそもどうして吐くの?吐いたらどうしたらいいの?いざという時に慌てなくてもいいように、原因として多いものと対処法をみていきましょう。

 

原因は?

犬は人間よりも吐きやすいと言われていますが、それは四足歩行なので身体の中の食べ物が通る道(食道)が地面と平行になっており、重力に逆らうことなく逆流できるからだと言われています。

逆に人間は二足歩行なので、食べたものは垂直に身体に入っていき、吐こうとする時は重力に逆らわなければならないので犬ほど容易には吐かないようになっていると言われています。

 

では、そもそも犬が吐いてしまう原因には何があるでしょう。

「気持ち悪い」「食べ過ぎちゃった」「お腹のこの辺りが痛い」など状況を自分で教えてくれたらいいのですが、相手が動物だとそういうわけにもいきません。

飼い主さん、獣医師が協力して状況や検査結果を参考に原因を突き止める必要があります。

嘔吐の原因として考えられるものをいくつか紹介しますので、おうちの子の原因を考える参考にしてみてください。

 

空腹・食べ過ぎ

原因として意外と多いのが、食べ過ぎや空腹による嘔吐です。

お留守番中にドックフードの袋を噛み千切って大量に盗み食いをしてしまった時や、ご飯とご飯の間が開きすぎていて、空腹の時間が長くなってしまったことにより吐いてしまうことがよくあります。

 

朝と夜の2回食であるおうちがほとんどだと思いますが、胃が空っぽの状態が長く続くと胃酸が刺激になり、透明や黄色い液体(胃液)を吐いてしまいます。

吐いた後はすっきりして、ケロッとしていることが多く、すぐにご飯を欲しがることもめずらしくありません。

ご飯を欲しがる場合は、少し様子を見てから、少量ずつにしてあげるようにしてください。

 

予防策としては、空腹の時間を短くする工夫をしてみましょう。

朝方に吐く場合

  • 夜寝る前に少しだけおやつやご飯をあげてみる。
  • 朝ごはんの時間を早めてみる。
  •  

夕方に吐く場合

  • 昼過ぎにおやつをあげてみる。
  • 夜ご飯の時間を早めてみる。
  • 朝ご飯の時間を遅くしてみる。

 

以上のように少しでも空腹の時間が短くなるように、調整してみてあげてください。

間食をおすすめしましたが、おやつを好きなだけ与えていると簡単に太ってしまいます。

肥満は他の様々な病気のリスクを高めてしまい、太るのは簡単ですが痩せるのはかなり大変です。

太ってから痩せるのではなく、太らないように気を付ける必要があるので、間に間食をあげる場合は、決まった1日のフード量から取り分けてあげるようにしてくださいね。

 

盗み食いなどによる食べ過ぎの場合は、消化しきれなかったフードを嘔吐したり、下痢がみられることもあります。

様子をみながら、次のご飯はスキップしたり、量を減らしたりしてあげてください。

続けて何度も吐く、ぐったりするなど他にも症状がみられるようであれば、すぐに動物病院へ連れていってあげてくださいね。

 

食べ過ぎや空腹が原因であれば、人間でも同じだと思いますが、しばらくすると落ち着いて元気になることも多いですよね。

犬も嘔吐してすっきりすると、その後は元気で食欲も戻ることが多いので、動物病院へ連れてきてもらった時には元気でいつも通り!ということも多くあります。

しかし、病院できちんと診てもらった方が安心できると思うので、心配なときは迷わず連れていってあげてくださいね。

 

病気

膵炎や腎臓病、感染症、胃拡張・胃捻転、寄生虫の寄生など様々な病気の症状の1つとして嘔吐がみられることがあります。

これらの病気が原因による嘔吐が疑われる場合は、家で様子を見ていて良くなることはなく、命に関わることもあるので、すぐに病院へ連れていってあげるようにしてください。

 

たいていの場合、何度も激しい嘔吐が続いたり、下痢や元気消失などの嘔吐以外の症状もみられます。

嘔吐や下痢が何度も続くと、脱水状態になることも考えられますし、身体の小さい子だとすぐに危険な状態に陥ることもあります。

必ずすぐに受診するようにしてください。

 

病名①
膵炎

膵臓(すいえん)が炎症を起こし、ご飯を食べても水を飲んでも吐いてしまいます。

かなり強い痛みがあるようで元気がなくなり、動けなくなる子もめずらしくありません。

膵炎に対する特効薬はなく、全く食べることができなくなることもあるので、入院して点滴を流し、対症療法を行いながら、治療することになります。

 

病名②
腎臓病

何らかの原因により、腎臓が正常に働かなくなる状態のことです。

急性と慢性があり、急性は急激に、慢性はゆっくりと進行します、急性の場合は、急にぐったりしたり、嘔吐、排尿量減少などがみられ、適切に治療を行えば回復が見込まれます。

一方、慢性は気づかないうちに徐々に体重や元気がなくなり、嘔吐や多飲多尿がみられ、気付いた頃には手遅れで、腎臓機能が回復する見込みがなくなってしまっていることもあります。

急性は気付きやすいのですが、慢性は初期の段階で気付くことが難しいので、定期的に健康診断を受けるなどして日頃から注意を払うようにしましょう。

 

病名③
感染症

パルボウイルス、レプトスピラ、コロナウイルス、犬伝染性肝炎などの感染症に感染している場合も嘔吐がみられます。

混合ワクチンに含まれている病気ばかりなので、ワクチン接種を行っていれば発症しても軽い症状で済むと考えられますが、ワクチンが完了していない子犬は特に注意が必要です。

症状は、嘔吐のみではなく、下痢や貧血など他の症状も合わせてみられ、逆に嘔吐がない時もあります。

子犬では、脱水などから簡単に危険な状態に陥いることがあるので、繰り返しの嘔吐や下痢がみられる場合は、すぐに受診するようにしましょう。

 

病名④
胃拡張・胃捻転(いかくちょう・いねんてん)

胃が何らかの原因で膨張し大きくなり、さらにねじれてしまった状態です。

胸の深いシェパードやゴールデンレトリバーなどの大型犬に起こりやすく、すぐに処置(外科手術)を行わないと命を落とします。

嘔吐の他に、かなり強い痛みがあるので、発症すると痛みで動けなくなる子も多いようです。原因は特定されておりませんが、食後すぐの激しい運動を避けるなど、疑わしい行動は避けるようにしましょう。

 

病名⑤
寄生虫

寄生虫…嘔吐を引き起こす寄生虫としては、回虫や瓜実条虫などが考えられます。

大量に寄生されていなければ症状が現れないことも多く、ほとんどが無症状です。

嘔吐だけではなく、下痢や食欲不振なども同時にみられることもあります。

 

誤食

食べ物ではないものを誤って食べてしまい、それが身体のどこかで閉塞してしまった場合、嘔吐を繰り返すことがあります。閉塞とは、閉じて塞がることを言い、おもちゃや靴下、ジョイントマットなどが消化管の途中で詰まってしまうことがよくあります。

詰まる場所により、下痢や便が全く出なくなったりすることもあります。

また、チョコレートやキシリトール、ぶどう類、ネギ類など犬にとって良くない中毒性のあるものを食べてしまった場合にも嘔吐することがあります。

 

閉塞してしまっている場合も、中毒症状を起こしてしまっている場合も、元気そうに見えても急変し、命の危険な状態に陥る可能性があります。

必ずすぐに動物病院を受診するようにしてください。

その場合は、食べてしまった物、量、時間などが分かるようにし、残っていれば食べたものを持っていくようにしましょう。

食べてからの時間が短ければ短いほど処置しやすいので、診察時間外の場合でも病院に電話をし、すぐに診察してくれるところを探して受診してください。

 

誤食は飼い主さんが気を付けてあげれば、100%防ぐことができます。大事な家族の一員である愛犬のために、細心の注意を払って、誤食のない環境を作ってあげてくださいね。

 

吐いたらどうする?

では、おうちの愛犬が吐いているのを見つけたら、どうしたらいいのでしょうか。

慌てずに何をチェックすればいいのか、どのように対処すればよいのか、病院に連れていくべきなのか、病院へいく場合は何を伝えればいいのか、などをみていきましょう。

 

吐いたものチェック

まず始めは、吐いたものをチェックしましょう。

吐いたものが液体の場合は、

  • 胃液なのか
  • 消化されたフードなのか
  • 血液なのか

分かる範囲でチェックしましょう。

 

チェックポイント~色~

  • 透明・黄色・緑色→胃液(胃液に胆汁などが混ざると黄色や緑色になります)
  • 赤色・赤黒い色→血液(赤は口腔内など近いところでの出血、赤黒い場合は消化管などからの出血が疑われます)
  • 茶色のどろっとしたもの→消化されたドッグフードの可能性(フードの匂いがするかどうか、匂いも確認してみてください)
  • 透明の泡状→唾液の可能性(吐くというよりは、気持ち悪くて口から出て、回りに付いていることが多いです)

 

個体の場合は、

  • 未消化フードなのか
  • 誤食した異物なのか

などを入念にチェックしてください。

 

判断がつきにくい場合は、現物を袋に入れて持っていくか、写真を撮ったりして獣医師に見せるようにしてくださいね。

何を吐いたのかは、診察する上でとても参考になるので、汚いと思わずにしっかり確認するようにしてください。

ただし確認する際は、衛生上素手では触らず、必ず手袋をはめるか袋を裏返しにするなどして直接嘔吐したものに触れないようにしてくださいね。

 

他の症状チェック

次に他の症状が現れていないかを確認します。

  • 元気・食欲の低下
  • 下痢
  • ぐったりしている
  • 水をたくさん飲む
  • 動きたがらない
  • 落ち着きなくずっとウロウロしている

 

このような症状や、いつもと違うところがないかを気を付けてみてあげてください。上に挙げたような症状がみられる場合は、単発的な嘔吐ではなく病的なものが考えられます。

どこかに痛みがある、しんどいというサインなので見逃さないように気を付けて、迷うことなく早めに受診するようにしてあげてください。

 

様子みる

吐いたのは1度のみで、その後はいつも通り元気にしていて、変わった様子がみられない場合は、焦って動物病院を受診せずに様子を見てみてもいいかもしれません。

受診しない場合、最低でも1日ほどは変わった様子がないか、注意して見守ってあげるようにしてあげてくださいね。

調子は悪くなくても、毎日吐いてしまったりする場合は、念のために受診するようにしてください。

 

ご飯は欲しがれば与えても構いませんが、胃を休ませるためにも吐いた直後は避けてしばらく様子を見て、必ず少量ずつから始めるようにしてください。

一気にたくさん食べると再び吐いてしまうこともありますので、気を付けてください。

 

受診する

何度も嘔吐が続く場合や、他の症状もみられる、何らかの異物を誤食したと思われる場合は、必ず動物病院を受診するようにしてください。

毎日みている飼い主さんからみて、いつもと違うと感じる場合は、受診することを躊躇せず病院へ連れていってあげてくださいね。

また病状によっては、激しい痛みや命に関わることもあるので、仕事が休みの週末まで待ってから連れていこうなどとは思わずに、少しでも早く連れていってあげてください。

 

犬は痛い、しんどいということを直接伝えることはできないので、1番身近な存在である飼い主さんがいち早く気付いてあげ、動物病院へ連れて行ってあげることが重要です。

何度も吐いて、痛そうでしんどそうな弱った様子はみているのも辛いですよね。

 

受診する際は、嘔吐した回数や量、内容物、時間やタイミングなどは、できるだけ正確に伝えられるようにしておきましょう。

必要であれば写真を撮っておいて見せたり、実物を持っていくなどしてもらえると、診察の役に立ち助かります。

 

まとめ

犬は人間よりも吐きやすく、早食いやどか食い、空腹など些細なことで吐いてしまうこともあります。

吐いたのが1回のみで、その後元気にしているのであれば、そのままおうちで様子を見ていても大丈夫な場合もありますが、何度も続けて吐く、下痢や食欲不振、元気がないなど他の症状も合わせてみられる場合などは、必ず病院を受診するようにしましょう。

嘔吐の影に恐ろしい病が隠れていることもあります。心配なときは、遠慮することなく病院で検査をしてもらうようにしてくださいね。

北井 未来

■資格一覧

動物看護師統一認定機構認定動物看護師

■経歴

2013年 大阪ペピイ動物看護専門学校卒業

大阪府内・東京都内 動物病院...