動物看護師が教える犬の室内事故への対策!自宅にある危険ゾーンとは
愛犬との外出時には、事故やケガを避けるためにさまざまなことに気を配りますよね。しかし、安全だと思いがちな室内にも、犬にとってはケガのリスクが高い危険ゾーンがあるのをご存じですか?思わぬ事故を防ぎ、愛犬が快適な暮らしを送るためにも、室内事故が起こりやすい場所と対策について知っておきましょう。
もくじ
犬は室内にいれば外へ行くよりも安全?
犬と一緒に暮らしていると、外に出かける機会はたくさんありますよね。
しかし、お散歩や旅行などの楽しいお出かけも、自宅の外に出るからには、
・感染症(ノミやマダニなどの寄生虫も含む)
・車や自転車、バイクなどとの交通事故
・他の犬や野良猫とのケンカ
・道路での拾い食い(食べてはいけないものを誤食する)
・犬が苦手な人への配慮(トラブル防止)
など、飼い主さんが注意しておくべきことがたくさんあって、なかなか気を抜けません。
そのため、自宅で愛犬と過ごす時間こそ、穏やかな時間を確保できる「安全な場所」だという人も多いはずです。
ところが動物病院には、屋外ではなく室内で起こった事故によるケガの治療のため、たくさんの犬たちがやってきます。
見知らぬ犬や人、危ない乗り物とは出会わない安全な場所のはずなのに室内でケガをしてしまうのは、自宅にも危険ゾーンが潜んでいるからなのです!
犬が室内でケガをしやすい危険ゾーン5つ
まずは室内で危険な事故やケガが発生しやすい場所を見つけてみましょう。
愛犬が過ごす自宅のスペースと見比べながら確認してみてください。
1.階段からの転落
室内で最も大きなケガにつながりやすいのが階段です。
実際のところ、愛犬が自由に2階への上り下りをしているという家庭もあるかもしれませんね。
しかし犬は、「上る」のはまだしも、「下りる」という動作に向いた体の構造をしていません。
そのため、上階まで上ったのはいいものの、下りる時にうっかり足を滑らせて転落してしまう危険性がかなり高いのです。
高い位置から転落すると、受けるダメージが大きくなりやすいのはもちろんのことです。
ですがそれだけではなく、犬は人間のように手すりをとっさに持ったり、落ちた瞬間に手をついて衝撃を和らげようとする行動が取れず、より強く全身を打ちつけるリスクが高いことも想像しておかなければいけません。
階段は、転落した時に全身を強く打ちつけることで、内臓を損傷して死亡してしまったり、骨折などの大ケガにつながりやすい危険な場所です。
2.床で滑って転倒
人間にとってフローリングは掃除のしやすい床材ですが、犬にとっては
・硬くてクッション性が低い
・肉球の滑り止め機能がうまく働かず滑りやすい
といった難点があります。
床で滑って足をひねるように転んでしまうことが増えるため、捻挫や打撲、骨折といった足元周辺のケガにつながりやすくなります。
特に、筋力が低下した老犬の場合は後ろ足の踏ん張りが効かないことや、体の重心が日頃から前がかりになってしまっていることが加わって、勢いよく顔から突っ込むように転ぶことも多いでしょう。
3.家具への上り下りで着地に失敗
ソファやベッド、椅子などは、人がくつろぐための家具として室内にあってほしいものですが、高さのある家具への昇り降りは、犬の関節に大きな負担がかかってしまいます。
犬が膝や肘、股関節などの病気を抱えている場合はなおのこと、昇り降りで衝撃を受ける足には、脱臼や靭帯の断裂といった危険が発生しています。
また、関節に病気を抱えていることはなかったとしても、骨格が華奢な犬種の場合は、ちょっとした着地の失敗で足をケガしてしまうことも少なくありません。
人にとって居心地や感触が心地いい家具は、やはり犬にとっても気持ちいいと感じるでしょう。
そして、大好きな飼い主さんがのんびりしている姿を見た時には、「自分も隣で一緒にくっついてくつろぎたい」とつい上りたくなってしまうのが犬の本能です。
そのため、高さのある家具が室内に置いてある場合には、犬が上り下りしてしまうことに対しての配慮が必要になります。
4.角や出っ張りに衝突
目が見えない、もしくは見えにくくなっている犬や、認知機能不全症候群(いわゆる認知症)の症状が進行した老犬などは、目の前に障害物が突き出ていたとしても、「気づいて避ける」という行動がとれません。
また、室内を勢いよく駆け回る活発な性格の犬も、走っていた勢いのまま急ブレーキがかけられず、テーブルや棚の角にぶつかってしまうことがあります。
軽く当たった程度であれば大きな問題にはならないことが多いですが、犬の目線の高さで物にぶつかってしまうと眼球に傷がついてしまうこともあり、注意が必要です。
5.ドアの開閉時に挟まる
小型犬で多いのが、飼い主さんの後をついてきて足元にいる愛犬に気づかず、うっかりドアの開閉に巻き込んでしまったパターンです。
大型犬であれば体高があるため、たとえ4本足で歩く犬でも人の目に入りやすいのですが、小型犬の場合はぐっと視線を下に下げないとなかなか気づきません。
さらには、大型犬が歩いた時の足音に比べ、小型犬の行動音は比較的静かに感じることも多いでしょう。
足先や顔、胴体など、犬の体で挟んでしまう場所はさまざまですが、ドアを開閉する強さによっては打撲だけでは済まないこともよくあります。
犬の室内事故を防ぐためにできること
犬にとって危険な場所がわかったところで、飼い主さんが自分でできる簡単な対策を考えていきましょう。
犬の生活スペースを区切って危険な場所を避ける
愛犬のケガを防ぐ最も簡単な方法は、犬が室内にある危険なゾーンに近づかないようにすることです。
・立ち入ってほしくない場所にはペットゲート(柵)を設置する
・犬が過ごす部屋を限定する
といった方法が、最も簡単に生活スペースを区切る方法です。
短時間ならサークルやケージといった手段もありますが、犬にとって自由度が低い場所で、長い時間をずっと過ごすということは難しいでしょう。
例えば、日頃から愛犬が階段を上り下りしたり、ドアを使って別の部屋へ移動する頻度が高いなら、「なぜ犬が上階へ上る必要があるのか」「別室に移動しようとするのか」を見直してみてください。
愛犬にとって楽しいと感じるものが上階や別室にあるのか、飼い主さんを追いかけて一緒に移動しようとしているのかなど理由は違いますが、特に危険度が高い階段は使わなくても良い生活にしてあげることが1番です。
例えば、もしも飼い主さんと愛犬が同じ上階の寝室で眠っていて、その移動のために…ということであれば、生活習慣を変えることは難しくても、階段の移動は少なくとも人が抱っこで連れていくことがベストです。
しかし、犬を抱えながらの移動は飼い主さんの転落事故にもつながりかねないので、抱っこを補助する特殊なハーネスを活用した方が安全性が高まるでしょう。
室内にある段差を小さくするアイテムを取り入れる
高さのある家具や、出入りするための玄関などに段差がある時には、
・1段あたりの高さを小さくできるステップ(小さな簡易階段)
・ゆるい傾斜を作ることができるスロープ
を取り入れて、犬がジャンプして上り下りした時の衝撃で、足に負担をかけないための一工夫をしてみましょう。
最初のうちは犬がピョンとジャンプして飛び乗る・飛び降りるという習慣がなかなかとれないかもしれません。
しかし、ステップやスロープへごほうびで誘導し、上手に上り下りできた時に「よくできたね!」とくり返しほめてあげることで、「使うと飼い主さんがほめてくれる」「上る時や下りる時にとても楽!」と少しずつ覚えてくれます。
グラグラと揺れて、安定性に欠けるステップやスロープでは、犬が使おうとした時に「何だか怖い…」と不安を感じて嫌な印象を抱いてしまうので、しっかりとした作りのものを設置してあげましょう。
滑り止めになる床材やワックスを活用する
室内の床がフローリングの場合は、
・クッションフロアシート
・ジョイントカーペット
・ジョイントマット(ポリエチレン素材など)
などを活用すると、床の滑りやすさを軽減したり、クッション性を上げることができます。
最近では、ペットがいる家庭の室内専用ワックスとして、フローリングやクッションフロアの表面に塗って30分ほど乾かすだけで、犬が滑らずに床を歩きやすくできる商品も販売されていますね。
ただし、クッションフロアシートは室内の雰囲気をおしゃれに仕上げられる一方で、全面に貼る手間がかかったり、何の加工もないものだと滑り止め効果が薄い商品もあるので注意が必要です。
ジョイント式のカーペットやマットも、毛が絡みやすいものや、かじり癖がある犬では誤食の原因になるケースもあるので、どの床材を活用するかは愛犬の性格や行動、飼い主さんの掃除の手間に合わせて選ぶと良いでしょう。
滑り止めワックスも、賃貸住宅では塗ることが難しかったり、一度塗っても一定期間が経つと塗り直す必要が出てくるため、便利な一方でデメリットもあることを確認しておくことをおすすめします。
犬の足元をケアして滑り止め靴下をはかせる
犬が地面を踏みしめた時に滑る原因として、肉球をおおうほど毛が伸びていたり、長い爪が足の裏の接地する面を邪魔してしまっていることもあります。
床や段差、階段などで滑って転んだり転落する理由として足元のケアが不足していることも多いので、足裏バリカンや爪切りといったお手入れは定期的に行いましょう。
そして、床材そのものを変えることが難しい家庭では、愛犬の足に滑り止めがついた靴下をはかせるという方法もあります。
筋力が低下して足の踏ん張りが効きづらい老犬や、病気で足に麻痺が残ってしまっている犬には、滑りにくいという効果に加えて、つい引きずりがちな足を保護する役目も果たしてくれるはずです。
シリコン製のものから布製のものまでたくさん販売されているため、
・犬が歩いた時に脱げにくい
・サイズがぴったり合う(犬が歩いた時に不快感を与えない)
・飼い主さんにとって着脱が簡単
といった条件を元に、愛犬が嫌がらない範囲で活用してみると良いですね。
犬は足先に触れるものに対しては敏感なことが多いので、最初はおやつを食べたり夢中で遊んでいる間だけはかせるなど、「靴下=はくと良いことが起こるもの」と理解してもらう練習を少しずつ行ってから使用してください。
また、滑り止め靴下を犬に長時間はかせ続けると、肉球の間の蒸れにつながることも多いので、時間を決めて使いましょう。
脱がせた時には肉球の間をチェックして、赤みや蒸れがないかを確認しておくと安心です。
家具の高さを変更して角には保護材をつける
ソファやベッドなど、犬がくつろぐためにジャンプして飛び乗ろうとしてしまう家具や寝具は、わざと位置が低くなるように、「フロアソファ」「フロアベッド(もしくは床に直接敷く和式布団)」タイプのものに変更してしまうという方法もあります。
スロープやステップといったアイテムを設置する必要がなくなり、愛犬に移動方法に慣れてもらう練習もいりません。
テーブルの場合は反対に、ローテーブルからダイニングテーブルなどに変更して高さをプラスすることで、犬の目線にテーブルの角がくることを防ぐことができます。
テーブルや椅子の脚には巻いて取り付けるタイプの保護材を使えば、万が一犬がぶつかっても衝撃を吸収してくれるでしょう。
テーブルや棚の高さ変更が難しく、犬の目線に尖った角が発生してしまうなら、人の赤ちゃん用でもよく使われる、クッション性のある角専用保護材をつけておくことをおすすめします。
愛犬の健康管理のためにも対策は必須!
室内で起きた事故によって愛犬がケガをしてしまうと、重症の場合は入院や手術が必要になったり、治療に思わぬ時間がかかることもあります。
愛犬の命に危険が及んでしまうような事故ならなおさら、「もっと早く対策をしておけば…」という後悔につながることもあるかもしれません。
さらには、突発的なケガだけでなく、段差や床の滑りやすさなど、移動することへの障害(障害物)があることで、
「歩くと疲れるから寝て過ごそう」
「トイレの段差を乗り越えるのが辛いから別の場所でしよう」
と老犬は考え、足腰の筋力低下が激しくなって寝たきりに近づいてしまったり、日常生活での「思わぬ失敗」が増えて飼い主さんの悩みが深くなってしまうこともよくあります。
足に負担をかけ続けたまま高齢になればなるほど、関節の痛みや炎症も現れやすくなるため、生活環境にはさまざまな配慮が必要です。
せっかくなら、愛犬には快適で、痛い思いをしない環境で、子犬から老犬になるまで暮らしてほしいもの。
ぜひ今日から愛犬のために、家庭でできる危険ゾーンへの対策を始めてみましょう!