【ドッグトレーナー監修】犬が怖がる『音』4選。音響シャイを克服するメソッドとは?
「音響シャイ」という言葉を、初めて聞いた方もいらっしゃると思います。
犬の音響シャイとは、特定の音に対して敏感に反応してしまい、平常心を保てなくなる状態のことです。犬は人よりも聴覚が発達しているため、私たち人にとってはなんでもないような音でも、その音に恐怖を感じる場合があります。
反応や感じ方には個体差があり、怖がる程度にも違いが見られます。
ちょっぴり気になるなあ、という軽度のものから、恐怖が強すぎるためにふるえが起こったり、重篤になると失禁をしてしまうケースまで様々です。
今回は、犬が怖がる代表的な音、4選に合わせ、なぜ音響シャイになってしまうのか、その主な理由と、仕草や反応、不安をやわらげるための方法などを解説していきます。
犬が怖がる音、4選
- 打ち上げ花火(花火大会、音の鳴るロケット花火等)
- 掃除機、ドライヤー
- 電車、飛行機の走行音
- カミナリ
たいていの犬は、これらの音に少なからず反応を見せるものですが「うちの犬は全部に対して怖がっちゃうけど、特に花火がダメなのよね」とか、「他の音は平気だけど、どうしても掃除機だけは苦手で…」というように、その子、その子によって、気になるポイントがあるようです。
他にはどんな苦手な音があるの?
一般的には、上記の1~4が多いのですが、中にはこうした音が苦手、という犬もいます。
- ペットボトルが転がる音
- 猫の鳴き声
- キャッチボールの音
- ビニール袋のカサカサ音
- 雨戸の開け閉めの音
- 建築現場の工事音
などなど
犬と人の周波数のちがい
犬の聴力は人の4倍以上、とされています。音というのは、周波数による空気の揺らぎのことを指し、人、犬、猫、鳥、など、種によって感知できる範囲が違います。
感知できる周波数の範囲は可聴域と呼ばれており、聴力を測る基準となる値のことです。
つまり、この可聴域の上下幅が広いほど、聴力が優れているというわけです。
人の聴力可聴域は、(低)20Hz~(高)20000Hzで、加齢とともに高い周波数が聞こえにくくなります。これに対して犬の聴力可聴域は(低)65Hz~(高)50000Hzですから、人に比べ、犬は高音域をキャッチする力が特に優れていることが分かります。
この犬の可聴域を利用したものに「犬笛」(いぬぶえ)と呼ばれる、犬の訓練に使用されるホイッスルがあります。
犬笛の音は、人には息の音程度しか聞こえないのですが、犬には遠く離れていても良く聞こえます。そのため、人と遠く離れていても、犬笛の音をキャッチして、指示に従うことができます。
また、消防車や救急車、パトカーのサイレン音に反応し、遠吠えをする犬も少なくはありません。これは、サイレンの高い周波数が、犬の遠吠えとよく似ている音域だからだと言われています。
仕草、行動
犬と人の聴力について違いが分かったところで、今度は、音響シャイな犬たちがおびえているときの仕草、行動について見てみましょう。
大きな行動から、小さな仕草まで、その犬によって反応が違うことに注目します。
- あっちに行ったり、こっちに行ったり、そわそわとして落ち着かない
- 部屋のドアをカリカリとひっかき、部屋から出たいような仕草をする
- 部屋のすみ、ソファの下など、とにかく狭く暗いところに行きたがる
- 自分のベッドやクッションなどを、前足で掘るような仕草をする
- グルグルとしっぽを追いかけるように周り、しっぽを歯でカチカチと嚙むことも
- 背中の毛が逆立っている
- ふるえる(小さなふるえから、ブルブルと大きなふるえまで)
- しっぽを内またの間に入れる
- クンクンと不安そうな声を出す
- 飼い主さんのそばから離れない
- 遠吠え
- 歯をカチカチと鳴らす
- 異常に自分の手足を舐める、噛む
- ハッハッと舌を大きく出し、短い呼吸を繰り返す(パンティング)
- よだれが出る
- 心拍数が上がる
- 失禁、脱糞
- 嘔吐や下痢
- 破壊や脱走
- 食欲が無くなる
などがあります。もちろん、よだれや心拍数の上昇、失禁、脱糞等は、音響シャイの中でもかなり重篤な反応であることは間違いないですから、愛犬にこのような症状が見られたら、動物病院を受診し、獣医さんからのアドバイスを受けることをおススメします。
また、最近では、犬の行動心理学専門の動物病院もありますので、お近くにそうした医療機関があれば、ぜひご相談に行かれてみてください。
ケース別、不安のやわらげ方
ここからは、冒頭にご紹介した、犬が怖がりやすい音について、それぞれのケースごとに原因や対処法を、細かくご説明してまいります。
打ち上げ花火(花火大会、一般的な音の鳴るロケット花火等)
私たち人も、子供時代には花火の音が苦手だった。という方が少なくはありません。
大人になるとその記憶を忘れてしまう方も多いのですが、よく思い出してみると、大きな花火で打ち上げられる「ドーン!!!」という音。
体の奥底までズシンと響くような衝撃に、思わず身をすくめた、という経験を持つ方もいらっしゃるのではないでしょう。
少しだけ記憶をさかのぼって、思い出していただきたいのですが、子供時代に「花火の音が怖い!」と思ったとき、周りの大人の反応はどのようなものだったでしょう。
おそらく、お母さまや、お父さまが「大丈夫だよ。見てごらん、きれいだね」などと、子供が安心するような声をかけてくれたはずです。
そして、何度も何度も繰り返して花火の音を聞くうちに、目で見る花火の美しさ、家族の笑顔で心が安らぎ、花火大会がいつの間にか好きになっていたのではないでしょうか。
打ち上げ花火の音は大きく、日常的には存在しない音ですから、犬が驚くのも無理のないことでしょう。特に、生まれて初めてその音を聞く子犬にとっては、大きな衝撃に感じられるはずです。
初めての経験で愛犬が驚いたときのために、飼い主さんはどうするか、心の準備をしておきましょう。
幼い頃に家族がご自身にしてくれたように、あなたも平常心で愛犬に接することが、音響シャイにさせないための、ひとつのキーポイントです。
パニックになっている愛犬を目にして、飼い主さんも慌ててしまうというのは、避けたいパターンです。なぜなら、大きな音に驚いて怖がっている犬は、その不安を誰かに助けてもらいたいと感じているのに、頼れるはずの存在である飼い主さんが「うわ、うちの子、すごく怖がっているけど、どうしよう…」などと不安な気持ちでいたなら、犬は感情の行き場がわからず、自分自身で解決しようと考えます。
不安と恐怖が高まれば、自分自身の気を紛らわすために、しっぽを追いかけまわしてグルグルと回ってみたり、前足を執拗になめてみたりすることもあります。
これらは犬が自分を落ち着かせるために行う行動のひとつですから、強いストレス下にある状態だと思ってください。
音響シャイをやわらげるためには、飼い主さんの心をドッシリと構えておくことが大事です。「音は大きいけど、大丈夫だよ。
なんでもないんだよ。この音は、あなたに危害を加えたりしないよ」という態度でいることが大事です。
掃除機、ドライヤーなどの電化製品
掃除機、ドライヤーなどの電化製品の音は、人と生活をともにする犬にとっては、日常的に耳にする音です。しかし、なぜかこれらの音を嫌がる犬もいます。
特に、掃除機が代表的なものですが、いったい、なぜでしょうか。
例えばドライヤーですが、モーター音が大きく、強い風が出ますので、これに驚くという犬は多いものです。さらに追い打ちをかけてしまうのが、飼い主さんの行動です。
ご家庭でシャンプーをしたあと、嫌がる犬を押さえつけるようにして、無理やりドライヤーをされた、という経験を持つ犬。
同様に、叱られた、ドライヤーで叩かれた、吹風口が近すぎたために、熱くて不快だった、などの嫌な経験をすると、ドライヤーの音を聞くだけで怯えて逃げ回るようになるケースがあります。
飼い主さんの中には、犬の嫌がる反応が見たいために、面白がってわざとドライヤーを犬の顔にあてるという方もいます。
動画や写真投稿サイトのアクセス数を稼ぐために、その様子をわざわざ録画するという方もいますが、こうしたことは犬には迷惑なだけで、一切、なにひとつ、良い効果がありません。
掃除機についても同様で、犬が怖がって吠えたてることを面白がり、恐怖心をあおるように、わざと掃除機を犬に向ける飼い主さんもいます。残念なことですが、実際にこうしたことがあります。
これでは、いくら生活に密着した日常的な音であっても、犬がその音を聞くだけで怖がってしまうのは、当然のことかもしれません。
なにも思い当たることがない、とか、過去に上記のようなことをやってしまったけれども、ドライヤーや掃除機に対する音響シャイをやわらげたい、と思われた方は、以下の方法を試してみてください。
- 掃除機やドライヤーを使うときは小さい音から始める
- 掃除機やドライヤーのスイッチを入れず、愛犬のそばに置いてみる
- 苦手な音を聞いているのと同時に、知育おもちゃなどを与え、愛犬の好きなもので気を紛らわせる。
犬は慣れることに長けた生きものです。しかし、幼少期に一度トラウマのような形で、嫌な気持ちがすり込まれてしまうと、それを克服するには、なかなか一筋縄ではいかないことが多いものです。
日常の生活音についての音響シャイは「最初が肝心」かもしれません。
電車、飛行機の走行音
お散歩コースでいつも電車が見えたり、家が飛行場から近いといった環境の犬は、それらに対する音への恐怖が少ない傾向にあります。
これは、単純に犬が「音に慣れた」ことに加え「その音がしても、何も自分に危害が及ばないことが分かった」からです。
つまり、本来なら驚くはずの大きな音にも慣れ、経験を積んだことで、いちいち反応しなくても良い音なのだと理解した、というわけです。
しかし、そうした環境下で暮らしていない犬もたくさんいます。
この場合は、あえて散歩コースに電車が通る道を入れてみるのも効果があるでしょうし、お休みの日に、飛行機を見せるために空港付近に遊びにいくのもおススメです。
これも、幼い頃からの経験値が、成犬になってからの「苦手な音」をひとつ減らすことにつながっていきます。
すでに電車や飛行機の音が苦手で、興奮し、おびえる犬もいます。
電車が見えなくなるまで、けたたましく吠え続けるとか、飛行機の音がすると途端に足がすくんで動けなくなるといったケースもあります。
こうした不安や恐怖心を完全にクリアすることは難しいかもしれませんが、苦手な音を繰り返して聞かせることで、少しずつ慣れさせることはできます。
犬の行動療法の中に「系統的脱感作法」というものがあります。
これは、犬が怖がる対象の音を録音して、繰り返して聞かせ、徐々に慣らしていく手法です。
最初は小さな音から始め、オヤツをあげて犬をほめます。
これを毎日繰り返し、だんだんと日常に聞こえる程度の音量まで少しずつ上げていきます。
食事の時間にこの音をかけるなど、リラックスした状況の中で、苦手な音に慣らしていき、不安や恐怖をやわらげることにつなげます。
カミナリ
カミナリの問題は深刻です。不規則で地鳴りのような大きな音は、多くの犬が苦手とする音ですが、その中でもカミナリは「雷恐怖症」と呼ばれるほど、怖がる犬がいます。
原因は特定されていませんが、カミナリは、空気振動が大きく関係していると言われています。
カミナリが鳴るとふるえが止まらなくなる、落ち着かず部屋をグルグルとまわる、ハアハアと息遣いが荒くなる、よだれが出る、などがよくあるカミナリに対する音響シャイの症状です。
大きな音や光に反応するだけでなく、気圧の変化に反応しています。
犬を外で飼っていらっしゃるご家庭でも、カミナリが予想される悪天候のときは玄関に入れるなどするのが良いでしょう。
カミナリに驚いてパニックを起こしてしまい、係留のためのロープや鎖を引きちぎって、逃走してしまった、というケースがあります。
また、毛の長い犬、毛の生えている面積が広い犬は(中、大型犬)、体質的に、静電気が体内にたまりやすい傾向にあります。
その場合、カミナリの発生時に起きる静電気の影響を感じやすいといった説もあります。
では、カミナリに対する音響シャイの対策について、私たち飼い主はなにをするべきなのでしょうか。その方法には、こうしたものがありますので、ご参考にされてみてください。
- スピーカーの重低音機能(ウ-ハ-)を使い、カミナリの発生時に似た空気振動に慣らす
- 静電気の放電を助けるために、サンダーシャツやケープを使う
- カミナリが鳴りそうな日は雨戸やカーテンを閉め、テレビを流しっぱなしにする
- 不安をやわらげるツボ押しをする
- やたらと話しかけない
- 安心できるスペースを作る
- 何度も窓からカミナリの様子を見に行ったりしない
- 軽度のおびえなら、なにもしないのが効果的な場合も
- 飼い主さんが過剰反応することで、犬の不安に拍車がかかるので、やめる
- クレートトレーニングを使って、安心な場所があるということを教える
などなど
カミナリの音響シャイについては、他の音響シャイとは別ものととらえた方が良いかもしれません。
というのは、他の音に対しては「幼い頃から慣れさせる」ことが基本となり、それによって一定程度の効果が実証されています。
しかし、カミナリについては、幼い頃からの経験値にあまり関係なく、成犬になってから突然、カミナリの音を怖がるようになった。という犬も多いのです。
加齢やホルモンバランスが関係していると言われていますが、まだ解明には至っていません。
先日、アメリカの食品医薬品局が、重篤な音響シャイの悩みを抱える犬のために、新しい薬を承認しました。
その薬の名は「ペクシン」と言い、脳のGABA受容体に作用し、神経活動を抑制する抗不安薬です。
日本での認可は下りていませんが、音響シャイでつらい思いをしている犬の不安を想えば、こうした薬の活用も期待されるところです。
まとめ
犬が怖がる代表的な音、4選に合わせ、なぜ音響シャイになってしまうのか、その主な理由と、仕草や反応、不安をやわらげるためにできることなどを解説してきました。
たいていの音に対する恐怖心は、生後7か月までの社会化トレーニングにゆだねられています。
ですから、社会化期に音を意識して取り入れてみることで、音響シャイの予防につながります。