【ドッグトレーナー監修】『抱っこ』の仕方を見直してみませんか?
みなさんのワンちゃんは、抱っこが好きでしょうか。それとも、あまり好きではないでしょうか。
中には、抱っこされるのがとても苦手で・・・と、いう犬もいるでしょう。
今回は、当たり前にしているようでも実は奥が深い「抱っこ」についてフォーカスしてまいります。
犬の体に負担のかかる抱っこや、嫌がる理由と、その解消法についてもご紹介します。
もくじ
抱っこは甘え?
犬を抱くという行為。これを「犬を甘やかしてしまうのでは?」と感じる方もいます。
基本的に犬は人とスキンシップをとりたい生きものですから、抱っこをすることで、お互いがリラックスできる、コミュケーションのひとつになります。
また、抱っこは様々なシーンで使うことが多い、便利なしつけであるとも言えます。ですから、小さいうちから抱っこを嫌がらない子に育てるのが理想です。
抱っこが必要な場面10選
次に、日常の生活の中で犬の抱っこが必要な場面を見ていきましょう。え?10個もある?と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、意外に多いものです。その主な目的としては、危険回避、犬の安全確保、社会的マナー、犬の不安を和らげる、といったことが挙げられるでしょう。
≪犬の抱っこが必要な場面≫
- 散歩中の自動車、オートバイ、自転車などの車両との接触を防ぐ
- 人の往来が激しい場所で、愛犬を踏まれないようにする
- 動物病院での待合室や診察台に乗せるため
- トリミングサロン、ホテルなどで店員さんにお預けするとき
- ドッグランなどで、犬の興奮をセーブする
- 散歩中に他の犬とトラブルになりそうなとき
- ドッグカフェや観光地でのマナーとして
- 夏場の熱くなったアスファルトで犬の足を火傷させないため
- 地震、大雨などの災害時に身を守る
- 足腰の衰え、病気時などに
このように、抱っこが好き、嫌いに関わらず、抱っこが必要な場面があります。
ですから、人と一緒に生活をしていく以上、抱っこは必要不可欠なものだと言えますね。
抱っこが苦手な理由
うちの子はどうしても抱っこが苦手で困っています、という飼い主さんもいます。
どうして抱っこが嫌いになってしまうのでしょうか。ここからは、その原因について探ってみましょう。代表的なのは大きく分けて、次の3つです。
メンタル的なダメージ
ひとつ目は「抱っこにトラウマがある」というケースです。もともとは抱っこが好きだったのにも関わらず、何かのきっかけによって、苦手意識を持つようになってしまったという場合です。
こうしたケースでは過去にさかのぼって、その原因を探しあてる必要があります。
犬は印象でものごとを覚える性質を持っていますから、何気なく暮らしている日々の中に、そういったトラウマになってしまう要素があったのかもしれません。
例として、以下のようなものがあります。
- 抱っこの後に、ケージに閉じ込められることがよくある
- 抱っこをされたら、手から落とされて怖い思いをした
- 抱っこをされたまま叱られた、叩かれた
などなど。よく思い返してみると、飼い主さんは気づかなくても、過去にこのような例に近いものがあったのかもしれません。
原因を探り当て、犬の心に刻まれてしまった不安や恐怖心を取り除くケアを行い、抱っこに良いイメージを持つように、印象の上書きをしていきます。
例えば、抱っこをされるときには、必ず褒めておやつをあげるなどのケアを念入りに続けることです。
一見、地味で単純なように思いますが、一度植え付けてしまったトラウマを克服するためには、こうした地道なフォローでリカバーしていくのが効果的です。
抱き方の問題
ふたつ目は、抱っこの仕方に問題がある場合です。犬は人とはちがい鎖骨がありませんから、両手をTの字に真横に広げることが不得意です。
つまり痛みを感じますから、嫌がるのも当然ですね。また、手だけをつかんで体全体を持ち上げようとすることも、犬の脇に負担がかかるのでNGと言えます。
背中の長い犬種を代表する、ダックスフント(スタンダード、ミニチュア、カニヘンすべて)や、ウェルシュコーギー・ペンブローグ(カーディガン)には、いわゆる「縦抱き」はあまりおススメできません。
腰、背骨に負担がかかるためです。
犬の体調によるもの
それまで抱っこが大好きだった犬が、突然嫌がるようになったという場合は、体調に変化がないか考える必要があります。
例えば、小型犬種では先天的に関節が弱い場合があり、中でも俗にパテラと呼ばれる膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)が起こりやすい犬種では、抱っこをされるときに痛みを感じ「キャン!」と鳴くことがあります。
また、変形性関節症、外傷などの可能性もありますので、最近どことなく元気が無くて、抱っこも嫌がるようになった…という場合には、念のため、動物病院で診察を受けると安心できますね。
正しい抱っこのしかたとは
では、正しい抱っこの仕方を、ポイントを押さえながら、おさらいを兼ねて一緒に復習をしていきましょう。
犬の正しい抱き方
- 犬の真正面からではなく、犬の横に体側になり、横の位置から手をまわし、胴全体をしっかり固定し、抱き上げます。
- 小型犬では片手で抱き上げたあと、片方の腕で重心を支え、もう片方の手を前脚の下に添えます。
- 中型犬や大型犬は、犬の胸前とお尻を両手で抱えこむようにして抱きあげます。(長時間は無理ですので短時間に留めましょう)
- 地面と背中が平行になるように横向きに抱きます。
抱き上げた状態から地面に下ろすときは、ゆっくりと下ろすことが基本です。
犬の脚先がきちんと床に着いたのをチェックしてから、手をゆっくりと離すことを心がけてください。
また、抱っこしている犬を他の方に預ける場合には、しっかりと相手が犬を抱っこしたことを確認した上で「いいですか?手を放しますよ」と、声を掛けることが、落下防止に一役買います。
ぜひお試しください。
犬の縦抱きについて
上記は基本的な横抱っこの手順です。
ここで、よく見られる「縦抱っこ」、についても説明しておかなければなりません。
縦抱っことは、通常、犬の姿勢を横にして抱くのに対して、人の赤ちゃんのように頭を上にした縦抱きのことです。
この抱き方ですが、実は、犬にとってつらい体勢だということを、みなさまはご存じでしょうか。
犬の体のつくりを想像してみてください。
四肢で歩いている時の背骨は、地面に対して水平ですね。
また、眠っているときは背骨を丸めるように休んでいることが多いと思います。
それが犬の自然な背骨の位置です。
つまり、犬は、自然にしていれば、地面に対して垂直に背骨を立てる姿勢を、長時間続けるのに適していない体のつくりを持った生きものなのです。
しかし、私たち飼い主は、ついつい犬を人の赤ちゃんや幼い子供のように感じてしまうものですから、犬もその抱き方をされると喜んでいるかもしれない、と思いながら、犬の要求のままに縦抱きをしてしまうことがあります。
でも、これは犬の興奮を高めてしまうと同時に、不安定な体勢になりますから、落下の危険性が高まります。そのため、人の肩に犬の前脚を乗せるように抱くのは、ややNGな抱き方であると言えます。
抱っこがもたらす効果
さて、犬を飼っている方なら誰しも、抱っこしているときに「癒される~」と感じた経験があると思います。
なぜ、私たちは犬を抱くすることで、心が安らぎ、ゆったりと落ち着いた気分になるのでしょうか。研究結果からそのメカニズムをのぞいてみましょう。
2019年に行われたWashington State University(ワシントン州立大学)の研究チームの発表が、その理由を裏付けています。
対象は学生249人とし、そのうち犬猫と10分間触れ合った学生には、ストレスホルモンであるコルチゾール値の低下が確認されたということです。
触れ合うだけでストレスホルモンが減っていくなんて、犬や猫が生まれ持った特別な才能だと言えますね。長い歴史の中で犬と人という異種が共存してきたのは、こうした特別な結びつきによるものなのかもしれません。
他には、犬と見つめ合ったり、抱っこをすることで、愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシンが増えるといった効果は有名な話ですね。
抱っこを通してふれあいいながらストレスを減らし、さらに見つめ合って愛情ホルモンで満たされる。そんな関係をいつまでもキープしければ最高ですね。
子犬のうちに教えたいこと
抱っこ好きな犬に育てるためには、幼いころからの習慣付けが大事です。
抱っこは安心できて温かいんだよ。抱っこされるといいことがたくさんあるよ。
抱っこされると安全なんだよ。こうしたことを子犬に教えていくことで、抱っこは心地よいものとして、犬の脳にすりこんでいく必要があります。
ところが、子犬を迎えたばかりの飼い主さんというのは、トイレや甘噛み、拾い食いなどのしつけに大忙しで、ついつい叱ることばかりに意識が向きがちになっていまいます。
そうなると、なかなか心に余裕が持てない状態が続くものです。
しかし、この時期にこそ教えて育みたいのは、人との信頼関係です。
叱られてばかり、注意されてばかり、悪さをしないようにとケージに閉じ込められてばかりでは、いざ抱っこをしようとしても上手にいかないものです。
怯えたり、イヤイヤと手から離れたがったり、抱っこよりも自由に広い場所を駆け回りたい、という欲求が先立ってしまうのですね。
その結果として、あまり抱っこが好きではない犬のまま成長してしまう、ということがあります。
これってワガママ!?
ここまでは、抱っこが苦手な犬について触れてきましたが、抱っこが大好きすぎて、これってもしかして犬のワガママ?甘え?依存!?と感じるパターンもあります。
犬が飼い主に「抱っこをせがむ」という場合です。せがむ、とは、リクエストするという状況ですが、抱っこをしてほしいと欲求が募りすぎて、飼い主との関係がこじれるケースに繋がるかもしれませんので、ちょっと注意が必要です。
リクエストがエスカレート
犬から「抱っこしてほしいな」というおねだりをされると、毎回毎回おねだりをされるたびに抱き上げてしまう、という飼い主は多いものです。しかし、今は手が離せないというときもあるでしょう。
そんなとき、犬側の要求が強すぎる場合は、おねだりというよりも「抱っこしてよ」という少し強めのニュアンスになります。
飼い主を見つめてもリクエストが叶わないときには、前脚でカリカリと飼い主の脚元や腕をかいたり、それでも要求が叶わない場合には、抱っこしてもらうまで吠え続ける、という行動へとエスカレートしていきます。
要求吠えを引き起こす
こうしたことが続けば、犬は要求吠えをすることによって(行動)、抱いてもらえる(報酬、成果)という方式が脳に擦り込まれていきます。これが要求吠えを引き起こしてしまう原因です。
犬の気持ちとしては「吠えたら」→「要求が通った」→「次もやろう」というシンプルな構造です。
この要求吠えは、繰り返されるとこにより犬に定着してしまいますから、定着する前に修正したいところです。
ワガママ要求、回避法
〇抱っこが犬からの要求「抱っこして」を回避する方法は、実は犬側の問題ではなく、すべて飼い主次第だと言っても過言ではありません。
何でも自分の思い通りになるわけではない、といったことを、犬に理解させることが大事です。
さきほどの「吠えたら」→「要求が通った」という構図は、まさに犬の意のままに、飼い主が受け身になっている状態です。
主導権を飼い主が取り戻す方法としては無視が一番です。
しかし、無視というのは簡単に見えて、実のところはなかなか難しいものですよね。
そこでおススメなのがこちらの方法です。ひとつ指示にしたがったら、犬からの要求をひとつ聞いてあげます。
≪実践≫
抱っこをせがまれたときには「オスワリ」と指示を出し、従ったら抱っこをするというようにします。
これは単なる見かけ上のアクションではなく、必要のない要求はそう簡単には通らないよ。こちらに主導権があるんだよ。ということを犬に理解させる意味、目的があります。
まとめ
いかがでしたか。抱っこについて改めて向き合ってみると、今まで見えなかった関係性や、抱っこの必要性が見えてきたかと思います。今は元気な犬も、やがてはシニア期を迎えることでしょう。
病院に連れていく機会が増え、体を触ったり抱き上げる頻度が多くなります。
いつかやってくるその時のために、幼い頃から身体を触られることや抱かれることに慣らしていきましょう。
2022.4.30 岩井 ゆかり