動物病院の検査ってどんなの?動物看護師が教えちゃいます!
調子が悪くなり動物病院へ行くと「検査しましょう」と言われることは多いですよね。皮膚や耳が痒い時も、下痢・嘔吐がある時も、元気がない時も、適切な処置をするためにはまず検査です。
検査と一口に言っても院内で簡単にできる検査から検査センターに出す検査まで様々です。
今回はそんな数ある検査について詳しく教えちゃいます!
もくじ
院内でできる検査
院内でできるメリットとしては、結果をすぐに知ることができるので、ただちに治療に繋げることができます。
状態が悪い時に何日も検査結果を待つ余裕なんてないですもんね。
デメリットとしては、場合によっては検査センターに出すより費用がかさむことでしょうか。
またほとんどないかと思いますが、ヒューマンエラーによる検査ミスなども検査センターより多いかもしれません。
病院の設備によりできない検査もたくさんありますが、それでも調子が悪く治療が必要な動物を助けるために院内検査はとても重要です。
どういったことが院内で調べられるのかみていきましょう。
検査といえば血液検査
- なんとなく元気がない
- しんどそう
- 食欲が低下している
- 嘔吐、下痢がある
以上のような場合は、まず血液検査です。
その結果次第で他の検査も合わせて行うこともあります。
検査するにはまず採血の必要がありますが、動物の採血は身体中が毛に被われているので簡単ではありません。
使う血管は前肢の橈側皮静脈、後肢の外側伏在静脈か大腿静脈、首の頸静脈があります。
点滴に使いやすいのが前肢なので、採血は後肢から行うことが多いです。
犬は脚の外側膝下辺りにある外側伏在静脈、猫は横に寝かせて脚の内側にある大腿静脈から行います。
後肢から取るのが難しい場合や、検査のために多めに量がほしい場合は頸静脈から取ります。
「そんなところに針を刺すなんて!」と驚かれるかもしれませんが、頸静脈からの採血は動物ではめずらしいことではなく、横にして押さえたりするよりも大人しくしてくれて早く終わることもあります。
また、採血は病院により、飼い主さんの前で行う場合と奥にある処置室などに連れていって行う場合があります。
奥に連れていくのは、動物が飼い主さんがいることによって助けを求めて落ち着かず、安全に採血できないなどの理由からになります。
決して見せられないようなことをしているわけではないので、安心してくださいね。
無事に採血が終わると、専用の検査機器を使って検査します。
白血球や赤血球、血小板の数などを計る血球検査と腎臓や肝臓などの数値を計る生化学検査を行います。それぞれに使う血液の形状が異なるので、分離させたりして必要分を用意します。
機械がすべての検査を終えるまで、項目数などにもよりますが、20分ほどです。
また必要に応じて、残りの血液を使用し、血液塗抹標本を作ります。
この標本を顕微鏡でみることにより、血液の細胞成分を直接観察することができます。
赤血球の形態や、白血球の分類などじっくり観察する必要がある場合に塗抹標本を作製します。
レントゲン検査
- 骨折
- 臓器の大きさチェック
- 妊娠チェック
- 誤食
レントゲンでは、金属や石・骨などが白く写り、空気は黒く写るので、上記のような場合にレントゲン検査を行います。
今のレントゲンはデジタル化されているので、撮影したらすぐにパソコンで画像を確認することができ、待つ時間もほぼありません。また撮り直しが必要な場合もすぐにできます。
一方、昔のレントゲンは写真のようにフィルムに撮影して、それを暗室で現像する必要があり、撮ったものを確認するまでにかなりの時間がかかっていました。
再撮影が必要となればさらに時間がかかり、飼い主さんが待つ時間も長くなってしまっていました。
昔からある病院では、まだこちらの場合もあると思います。
レントゲンは痛みのないすぐにできる検査なので、比較的よく行われる検査です。
ただし、ごく少量ではありますが放射線に被曝することにはなります。
撮影時は撮影者以外の入室はできず、放射線が出ないように鉛で防護された撮影室で撮影は行われるので、飼い主さんの立ち会いはできません。
また麻酔も鎮静もなしで撮影できることがほとんどですが、動くと撮れないので保定(動かないように抑えること)は必要になります。
超音波検査(エコー)
- 心臓病
- 胃や肝臓、膀胱、子宮など臓器の異常が疑われるとき
超音波検査では液体や個体は超音波の伝導がよいので、肝臓や腎臓などの臓器や筋肉、脂肪などをみることに適しています。
さらにレントゲンでは静止画しか見られませんが、エコーは動画で実際に動いているところを見ることができるので、心臓病の子の心臓の大きさや血の流れ、弁の動き、心臓の動きなど前回と比較しながら細かくみることができます。
心臓病の子は進行度合いをチェックするために定期的にエコー検査をする場合が多いです。
また腹部の様々な臓器の形の異常や結石、炎症の有無なども確認することができるので、子宮蓄膿症が疑われる場合などもエコーをします。
エコーもレントゲンと同じで、痛みを伴わなく、麻酔も鎮静もなしでもできる検査です。
ただ、動いてしまうときちんとみることができないので、保定は必要になり、レントゲンよりも長時間じっとしていてもらう必要があります。
しかし放射線の被曝の心配がないので、検査中に飼い主さんに付き添ってもらうことができるので、動物たちも少し安心して検査できますね。
ただ、ここでも身体中の毛が邪魔になって正確にみえないことがあるので、場合によっては毛刈りが必要になります。
毛刈りをしない場合も毛をたっぷりと濡らし、専用のゼリーをつけるので、検査が終わると検査部位はびしょ濡れです…(お返しする前に頑張って拭きますが…)
尿検査
- 頻尿
- 血尿
- 尿失敗
- 尿がキラキラしてる
- 多飲多尿
などの場合、尿検査をします。
飼い主さんに尿を持ってきてもらうことが多いですが、場合によって尿道にカテーテルを入れて採尿する場合や膀胱穿刺(直接膀胱に針を刺しての採尿)することもあります。
検査自体は痛みも何もありませんが、こういった採尿方法になってしまった場合は動物たちに少し頑張ってもらう必要があります。
尿を持参する場合は、ペットシートに吸収されてしまった尿は取り出せないので、検査に使えません。
スポイトで吸ったり、容器で受けたりするなど液体の状態で持っていってくださいね。
コットンに吸わせたものでも絞り出せるので検査に使うことができます。
尿検査には目視による形状確認の他、尿試験紙を使ってする検査や比重計と呼ばれるもので比重を測る検査(試験紙に含まれている場合もあります)、標本を作って鏡検(顕微鏡を使って検査・観察すること)する検査などがあります。どれも簡単にできる検査なので、まとめて行うことが多いです。
形状確認···色・匂い・混濁度をみます。
水のように無色、褐色、赤色、乳白色ではないか、白く濁っていないかなどをチェックします。
尿試験紙···試薬のついた試験紙に尿を付け、規定の時間待ち、色の変化で結果をみます。
主な項目はタンパク質、ブドウ糖、潜血、ケトン体、ウロビリノーゲン、ビリルビン、phです。それぞれ尿に含まれているのかどうかを検査し、含まれる場合は腎臓や膀胱の異常が疑われます。
phの項目は尿が酸性なのかアルカリ性なのかを調べます。
通常、酸性~弱アルカリ性で5.5~7.0ぐらいが正常値なのですが、細菌が増殖するとアルカリ性に傾きます。
比重···尿の濃縮や希釈能の状態を水の重さを1として数値化してみます。
高いと濃い尿ということになり、脱水や糖尿病の可能性があります。低いと薄い尿ということになり、腎不全が疑われます。
鏡検···尿を直接スライドガラスに垂らして作る標本と、遠心分離機という機械にいれて分離させ、沈殿物を染色して作る標本があります。
尿の中に結晶がないか、炎症反応はないかなどを調べます。
特に結晶は結石の元になるので、尿道閉塞なとを防ぐために早く見つけられるように検査は重要です。
便検査
- 下痢
- 血便
- 便の回数・量が多い、少ない
- しぶり
このようにいつもと違う症状がみられる場合は、便検査をします。
便検査には目視による形状確認の他、直接法と浮遊法があります。
形状確認···色、固さ、粘液の有無などをみます。
血便で赤い鮮血が付いている場合は、肛門近くの出血があり、離れた部分(上部消化管)での出血の場合は血が固まり、黒っぽく見えます。
粘液便は便にゼリー状のものが付いているかです。
普段から便に混じっているものなので、量が多くないかなどをチェックします。
直接法···スライドガラスに便を直接のせ、鏡検します。多すぎても少なすぎても見にくいので、絶妙な濃さで標本を作る必要があります。
浮遊法···試験管に飽和食塩水と便を混ぜたものを表面張力するまでいれてしばらく放置し、浮いてきたものにスライドガラスを軽く押し当てて標本を作ります。
寄生虫や原虫、またその卵がでていないか、食べたものはきちんと消化されているか、細菌叢のバランスなどをみます。
それでも原因が分からず下痢が続いたりする場合は、検査センターに出すこともあります。
耳垢検査・皮膚掻把試験
耳の場合
- 痒がる(後肢で掻く・頭を振る・こすりつけるなど)
- 赤い
- 汚れている
- 臭う
こういった場合は耳垢検査をします。
耳垢を染色、鏡検し、細菌やマラセチア(カビの一種)などの有無を調べ、どういった薬が効くのか診断します。
皮膚の場合
- 痒がる
- 赤くなっている(黒くなっていることも)
- 脱毛
- カサカサしている
などの場合は、スタンプ検査や皮膚掻把検査を行います。
スタンプ検査···スライドガラスを直接病変部に押し付け、染色・鏡検します。
細菌、マラセチアの感染がないかや炎症細胞や腫瘍細胞がないかを調べます。
皮膚掻把検査···鋭匙と呼ばれる専用の道具を使い、皮膚を少し掻いて削り取り、それを鏡検します。
疥癬やニキビダニ(アカラスとも呼ばれる皮膚や毛穴に入り込む寄生虫)がいないかなどを調べます。
細胞診(FNA)
- できもの、しこりができた時
何かできものができたときにそれがどういったもので出来ているのか針で刺して細胞を取り、顕微鏡でみるのが細胞診です。腫瘍なのか、炎症反応なのか、出ている細胞をみて判別します。
細胞診もスライドガラスで標本を作ります。
針でさして採取したものをスライドガラスに吹き付け、それを薬剤で固定・染色します。
院内で獣医師が鏡検しただけでは分かりかねる場合は、検査センターに送って、さらに診断医にみてもらうこともあります。その場合は結果が返ってくるまで早くても1~2日はかかります。
検査センターに出す検査
専用の機器や薬剤、技術がないと標本を作ることができない・検査できない、専門家に診断してもらう必要がある場合は、検査センターに出します。
検査センターには技師や診断医が在籍しており、各動物病院から送られてきた検体から標本を作製したり、検査・診断をしています。
動物を対象とする検査センターも複数あり、院内での検査よりも正確で、診断を専門とする獣医師にみてもらうので、信頼できる結果になります。
検査センターに出す検査もたくさんあるので、ほんの少しご紹介しますね。
組織診
- 術後の確定診断
私は以前、検査センターの病理診断部にも勤めていましたが、手術で切除した腫瘤などがホルマリン漬けの状態で届きます。
乳腺腫瘤や精巣、断脚した猫の脚なども送られてきていました。
その届いた検体を診断医が検査に使うところを切り出し、そこから技師が標本を作製し、再び診断医が診断していました。3~5日の間には病理診断報告書をお送りしていました。
組織診では、腫瘤が良性なのか悪性なのか、マージン(腫瘍周囲の腫瘍細胞が存在しないと想定される範囲)がきちんと取れているのか、どういったものが多く含まれているのかなどを報告します。
日数、費用はかかりますが、動物病院で簡単にできる検査ではないので、たいていの動物病院で術後検査センターに出すことになります。
血液検査
血液検査は院内でできると紹介しましたが、専用の機器・薬剤が必要であったりして、出来ない項目もあります。(病院によって導入している機器が違うので、検査できるところもあります)
また、院内でも測定できますが、検査に使う試薬の単価の関係で検査センターに出した方が安い場合もあります。
特に健康診断目的の血液検査は、検査センターでもキャンペーンなどを実施していることがあるので、検査を出した方が安いこともあります。
検査に出すことが多い項目は、甲状腺や副腎皮質などのホルモンの数値や特定の薬を常用している場合の血中薬物の数値などです。
他にも最近ニュースでもみかけるダニが媒介するSFTSウイルスの検査や混合ワクチンの抗体検査、アレルギー検査も行うことができます。
まとめ
動物病院で行う検査にもいろいろな種類ややり方があり、症状や状況に合わせて1番最適な検査を選んで行われています。
今回少しご紹介させていただいたようにエコーや尿検査などのように侵襲性(身体に対する負担)が低い検査から組織検査のように手術を行って検体を取り出さないとできない、侵襲性が高い検査まで様々です。
飼い主さんが立ち会えず、奥に連れていかれて行われる検査も多く、どういった検査をどのような方法で行われているのか分からないまま愛犬愛猫を連れていかれると、不安になってしまいますよね。
この記事を読んで、そういった不安を少しでも取り除くお手伝いができていれば幸いです!。