動物看護師が語る!誤食の恐怖!!!
犬猫の誤食というと、おもちゃやマット、ごみなど本来食べるものではないものを誤って食べてしまった場合と、チョコレートやレーズン、玉ねぎなど食べ物ではありますが犬猫には毒性のあるものを食べてしまった場合があります。
どちらの場合も食べるのは一瞬です。しかし本当に気を付けないと命を落としかねないのです。
もくじ
誤食のなにが怖い?
よく食べてしまうものにおもちゃやジョイントマット、プラスチック製品、人間の食べ残しの鶏の骨や果物の種などがあります。
食べてしまったものや量、大きさにより、身体に及ぼすダメージも異なり、対処法も変わります。
自分自身でむせ込んで吐き出してくれることもありますし、途中でつまったり、穴が開いたりして緊急の処置が必要になることもあります。
身体にどういったことが起こるのか詳しくみていきましょう。
閉塞する(詰まる)
まずは閉塞の可能性があります。人間でも大きなものなどが喉に詰まって苦しくなったりしますよね。
犬猫ももちろん喉に詰まって窒息することもあります。
ボールなどのおもちゃやジョイントマット、歯みがきガムやジャーキーなどの固いおやつ、靴下、ひも状の長いもの、丸まったティッシュなどが詰まってしまうことが多くあります。
食べてすぐ胃に入るまでの場所であれば食道で、この辺りに詰まると悪心(吐き気を催すこと)・嘔吐の回数も多く、苦しそうなので飼い主さんも気付きやすいかと思います。
胃までいってから幽門(胃の出口)で詰まったり、腸で詰まって腸閉塞になると、命に関わるので緊急で手術が必要になります。
幽門は噴門(胃の入口)と比べると狭くなっており、詰まりやすいです。
そこからさらに進んだ腸はさらに細く、蛇行しているので、うまく幽門を通り抜けてきた異物も詰まる可能性が高いです。
さらに腸の詰まった部分は血流が悪くなり壊死することもあったり、たとえ物が詰まって動けない部分があったとしても腸は動き続けるので、腸の中に腸が入ってしまう「腸重積」という状態を引き起こす可能性もあります。
その場合は、さらに激しい嘔吐と腹痛があり、ただちに手術が必要になります。
閉塞したことにより、何度も何度も嘔吐し、水を飲んだだけでも吐いてしまう動物をみると本当にしんどそうで、見てる方がつらくなります。
動物は喋れないので、痛くても吐きそうでも教えてはくれませんが、詰まると本当に気持ち悪そうで痛そうで、見ていて何かおかしいなと分かります。
普段病院ではシャーシャー怒っている猫ちゃんも怒る元気もなく、うずくまってしまうほどです。
穿孔する(穴があく)
食べたものやその形状にもよりますが、穴が開くこともあります。
人間の子どもでもよく聞くかと思いますが、ボタン電池は体内でアルカリ性の液体が発生し、消化管を溶かし穴が開いてしまいます。
食べたものが竹串や爪楊枝、針や骨など先の尖ったものであった場合は、体内を移動する時に傷を付けたり、穴を開けたりしかねません。
また腸閉塞により腸に穴が開くこともあります。
その場合、腸内のものが腹腔に漏れでてしまい、腹膜炎になってしまうことも考えられます。
穴が開くだけでも一大事ですが、プラス腹膜炎となってしまうと本当に命の危険です。
猫はおもちゃに付いているひもなど長いものを誤食してしまうことが多いのですが、誤食後詰まらずにうまく流れていき、最終的にそのひもの端がお尻から出てくることがあります。
たとえもしお尻からひもが出ているのを見つけたとしても、思いっきり引っ張ることは絶対にしないでください。
抜けるかなと思い、引っ張ってしまう気持ちはとてもよく分かるのですが、最悪の場合腸に傷がついたり、穴が開くこともあります。
あまりにも長く出ているときは引っ張らずに、出ているところだけを切って動物病院へ行くようにしましょう。
中毒症状
先にあげた2つは、物理的に食べたものにより引き起こされますが、食べたものの成分により中毒症状が起こり、危険な状態に陥ることもあります。
犬猫に中毒症状を引き起こすものの例をいくつかあげておきます。
・チョコレート(カカオ)···カフェインやデオブロミンと呼ばれる成分によって引き起こされます。
デオブロミンを分解、排出することが犬猫は苦手なので、体内に長く留まり中毒症状が起こります。
デオブロミンはカカオ成分なので、最近流行りのカカオ濃度の高い、濃いチョコレートは少量でも危険です。
症状···嘔吐、下痢、興奮、ふるえ、痙攣など
・玉ねぎ、ニラ、ねぎなど···アリルプロピルジスルフィドと呼ばれる成分が赤血球を破壊することによって引き起こされます。
加熱しても毒性は変わらないので、ハンバーグや、オニオンスープなどもやめておきましょう。
症状···血尿、嘔吐、下痢、元気や食欲の低下、貧血など
・レーズン(ぶどう)··どの成分が原因かはまだ解明されていないようですが、腎臓の尿細管を壊死させてしまうことによって引き起こされると言われています。
急性腎不全になり、死に至った例も報告されています。
症状···嘔吐、下痢、急性腎障害など
・キシリトール···インスリン(血糖値を下げるホルモン)の働きを盛んにするので、低血糖に陥ります。
また肝機能障害を引き起こすこともあり、ひどい場合は血液凝固にも影響を及ぼし、血が止まらなくなることもあります。
症状···嘔吐、痙攣、虚脱など
・ゆり(猫)···こちらも原因は解明されていないようですが、少量舐めただけでも急性腎不全を引き起こし、重度の場合、死に至ることもあります。
花だけでなく、葉、茎、根などすべてが猫にとって毒となり、身体についた花粉をグルーミングしただけで症状が出た例もあります。
症状···嘔吐、流涎、元気や食欲の低下、脱水、尿量減少、ふるえ、痙攣など
個体差があり、たくさん食べても何も問題が起こらない子もいれば、少し舐めた程度でも何らかの症状が出るような子もいるので、一概に危険な量を提示出来ませんが、たとえ何もなく大丈夫そうに見えても、食べさせるべきではありませんし、少量でも口にしてしまった場合は動物病院を受診しましょう。
誤食したときに動物病院ですること
愛犬、愛猫が誤食してしまった場合、迷わず動物病院へ電話してください。
食べたもの、量、時間、今の様子を伝え、あれば食べてしまったものの残りや商品袋などを持っていってください。診察、処置の参考になります。
食べたもの、大きさ、量、時間によって処置の仕方は変わってくるので、できるだけ正確に答えられるととても助かります。
ではそれぞれの処置をみていきましょう。
催吐処置(吐かせる)
・食べてしまってからそれほど時間が経っていない
・まだ胃の中に誤食したものがある
・吐かせても食道などを傷付ける恐れがない
上記の場合は無理矢理吐かせます。
また先の話であったように毒性のあるものの場合、できるだけ早く体内から出し、毒を身体に取り込まないようにするために吐かせることもあります。
無理矢理吐かせると言っても、口に指を突っ込んだりするわけではありませんが、薬によって強制的に吐き気を催させるので少し可哀想ですよね。
昔は口からオキシドールを飲ませたりしていましたが、嫌がるので大型犬などは本当に大変でした。
今は主に注射で、血管に嘔吐の副作用のある薬剤をいれて吐かせます。
なかなか吐かない場合は少し運動させて、吐くのを促します。
吐いてほしい異物を出したからといって、薬の作用は急には無くならないので、処置した後はしばらく気持ち悪く、嘔吐が続きます。
吐くことって結構体力を使ってしんどいですよね。誤食したものを身体から出すことができ、麻酔をかけたりしなくて済むとはいえ、悪心・嘔吐が続くのは動物たちにとってもなかなか辛いです。
放っておく(便で出るのを待つ)
・食べたものがすごく小さい、もしくは噛み砕いて食べたので詰まる心配がない
・鋭利なものではない
・有害なものではない
上記のことから、便で出そうだと判断されれば特に何もせず待つだけの場合もあります。
動物からしたら1番良い方法ですね。
飼い主さんには、家で毎日便に食べたものが出ていないかチェックしてもらう必要があります。
ちゃんと出てくるのか、待ってる間になにか問題が起きないか、ハラハラドキドキですよね。
病院に連れてきてもらい、レントゲンやエコー検査をし、待っても大丈夫なのか判断するので、「検査だけたくさんして、何も処置しないなんて!」と思われるかもしれません。
しかし、その検査をしないと待っても大丈夫かどうか判断がつかないのです。
食べたものによってはレントゲンに全く写らないこともあります。何も写っていないレントゲンを見せられて「写らないなら撮る意味なかったんじゃないの?!」と思いますよね。
食べたものは写っていなくても、消化管の太さやガスの溜まり具合などをみて、何も問題が起こっていないかを確認しているのです。
またレントゲン、エコー検査はじっとしてもらわないと検査できないので、動かないように抑えることはしますが、痛みは全くなく、動物へのダメージはほぼありません。
それなら何もないことを確認するために検査をしてもいいのではないでしょうか。(もちろん費用はかかってしまいますが…)
取り出す
・途中で詰まる恐れのある大きさのもの
・鋭利なもの
・既に詰まっている
上記の場合は直接取り出すことになります。
胃の中にあれば内視鏡を使って取り出すことができるので動物へのダメージも最小限にすることができます。
内視鏡ではカメラ越しに胃内を確認しながら、異物を取り出します。
口から消化管を通って胃まで入れるので、その道筋を通ることのできるものなら、内視鏡を使って取り出すことができます。
・内視鏡で取り出せないもの
・胃から腸へ流れてしまっているもの
・腸で詰まっているもの
上記は開腹手術になります。
お腹を開け、手で直接触りながら閉塞部位を探します。
見つかればその部位を切り、異物を取り出し、縫合します。
食べたものが1つではない場合や噛んでバラバラになっている場合もあるので、1つ見付けて安心ではなく、全てを直接触って他にないかしっかりチェックします。
また腸が閉塞により壊死してしまっている場合は、その部分を切り取り、その前後で縫合することになります。
腸管の縫合は綺麗に丁寧にしないと内容物が腹腔に漏れでてしまい大惨事になるので、縫合後も漏れがないか生理食塩水などを流して入念にチェックします。
開腹手術はこういったこともあり、動物へのダメージがかなり大きくなります。
さらに術後しばらくは絶食です。回復してきたら流動食から始め、徐々に固形に戻していきます。
内視鏡では2~3日の入院、状態が良ければ当日退院もできることがありますが、開腹した場合は1週間近くは入院になります。
神経質な子だとこの入院生活もかなりのストレスですよね。
また、内視鏡も開腹手術も麻酔が必要になるので、麻酔のリスクも伴います。
あまりないとはいえリスクは0ではなく、また閉塞により状態が良くなければさらにリスクは高まります。
まとめ
誤食には、食べ物ではないものを食べてしまうパターンと食べてはいけない毒性のあるものを食べてしまうパターンがあり、どちらも命に関わることがあるので注意が必要です。
閉塞する、穿孔する、中毒症状が出ることなどがあり、どれも致死的になることもあります。
また処置も催吐、内視鏡、開腹手術などどれも動物にそれなりのダメージがあります。
何もせずに便で出るのを待つこともありますが、確実ではなく出るまで不安な日々を過ごすことになってしまいます。
誤食は、飼い主さんの力で防ぐことができます。
ごく稀にものすごい執念で、隠しても隠しても見付けてきて食べる子もいますが、食べるものがなければ誤食はしません。
食べそうなもの、気にしているものなどは置かないようにして、おもちゃは家族の誰かがみているときに使うようにしましょう。
また家族全員が出掛けていて、お留守番のときはゲージに入れるようにするなど、対策をしてあげてください。
処置には食べてからの時間が重要になってくるので、愛犬愛猫の様子がおかしい、家で無くなってるものがあることに気付いた場合などは、できるだけ早くかかりつけの動物病院へ連絡してください。
時間外などでかかりつけで診てもらえない時のために、最寄りの年中無休や夜間救急の動物病院をあらかじめ探しておくと安心です。
誤食はよくあることと軽く思わず、最悪の場合はお腹を開いて、腸を切っての手術になり、助からない場合もある怖いことなのだときちんと認識し、飼い主さん自身で愛犬愛猫を守ってあげてくださいね