動物看護師と考える!わんちゃん、ねこちゃんの避妊・去勢手術はかわいそう?

新しくわんちゃん、ねこちゃんをおうちに迎え入れた時にすることの1つに避妊・去勢手術があると思います。

里親として譲り受ける時は必須条件になっていることがほとんどです。それでは、なぜ手術が必要なのか知っていますか?

今回はそんな避妊・去勢手術をすることのメリット、デメリットをみながら一緒に必要性を考えていきましょう。

 

どうして避妊・去勢手術が必要なの?

今では当たり前のように行われている避妊・去勢手術ですが、そもそもどうして必要なのか分からないまま、動物病院、ペットショップ、譲渡元から言われるのでしているという方も多いと思います。

きちんと説明を受けて納得してからの手術であれば必要性を理解できますが、ただ「受けなければいけないから」と手術することになれば「かわいそう…」と思ってしまいますよね。

病気でもないのに痛い思いをさせるのは可哀想だし、飼ったばかりで他にもたくさんお金がかかったのにさらに手術費用もかかるし、と躊躇う気持ちもよく分かります。

どうして手術を受けるように言われるのか、納得して手術ができるように、必要な理由をみていきましょう。

 

必要な理由1:病気の予防

 

これが手術を受けておくべき1番の大きな理由です。

女の子では子宮蓄膿症、乳腺腫瘍などの病気が年齢とともに多発するようになってきます。

それぞれの病気を詳しくみていきましょう。

 

・子宮蓄膿症···その名の通り、子宮に膿が溜まる病気です。

手遅れになると体内で子宮が膿により破裂し、亡くなってしまうこともあります。

主な症状として飲水量、尿量が増える、元気食欲がないなどがみられます。

陰部から膿が出る開放性と全く出ない閉鎖性があり、閉鎖性の方が膿が出ないので飼い主さんも気付きにくく、病院に来る頃にはぐったりということもあります。

この病気の1番の治療法は外科的に子宮、卵巣を取り除くことです。

手術自体のやることは、普通の避妊手術と変わらないのですが、元気・食欲もなく状態も悪い中での緊急手術なので、平常の元気なときと比べると格段にリスクも費用もはね上がります。

膿により信じられないぐらい大きくなった子宮を何度も見ましたし、実際に助からなかった子もいました。

受付での問診で「高齢の女の子、元気食欲がない、水をよく飲む」と言われると、すぐにこの病気を疑うほどよくみられる病気でした。

9歳以上の未避妊の子の66%以上がなるという報告もあるようです。

この恐ろしい疾患も子宮・卵巣を取り除いていればかかることはないので、避妊手術をしていれば事前に防ぐことができるのです。

 

・乳腺腫瘍···人間でもよく聞く乳がんのことです。犬猫でもよくみられる腫瘍です。

腫瘍と言っても良性と悪性があり、良性の場合は転移もなく摘出すればそれで終わることも多いです。

一方で悪性の場合は、他の乳腺やリンパ節、肺に転移しどんどん増えていき、進行も早いので気付いた時には予後不良のこともあります。

犬では約50%、猫ではなんと約80~90%の確率で悪性であると言われており、良性か悪性かの確定診断は腫瘍を摘出してから病理組織診断に出さなければ分かりません。

そのため猫ではしこりが見つかると、他の乳腺にも転移していることを想定し、飼い主さんと相談の上で、片側の乳腺を全摘出することもめずらしくありません。

さらに反対側の乳腺も1ヶ月ほど空けてから、全摘出することもあります。

片側や両側の乳腺摘出と簡単に書いていますが、実際の痛みは想像を絶すると思います。

犬の乳頭は左右5個ずつ、猫は4個ずつあり、乳腺も広範囲に広がっています。

人間よりも動物の方が回復が早いと言われていますが、片側全部取るということは人間の体でいうと、胸上辺りから鼠径部ぐらいまでを切り取るようなものです。

考えただけで痛いですよね。手術も皮を剥いでるようで、本当に痛そうです。

そんな乳腺腫瘍も早いうちに避妊手術をすることで発生率をぐんと抑えることができると報告されています。

避妊手術を行う時期とその後の乳腺腫瘍の発生率の数字をそれぞれ見てみましょう。

犬では

 

・初回発情前(6ヵ月齢ぐらい)…0.05%

・2回目の発情までの間…8%

・3回目の発情までの間…26%

 

猫では

 

・6ヵ月齢まで…9%

・1歳まで…14%

・1歳~2歳の間…89%

・2歳以上…変わらない

 

と言われています。

この数字をみると犬も猫もいかに若いうちの避妊手術が重要かよく分かると思います。

続いて男の子では、肛門周囲腺腫や前立腺肥大、精巣腫瘍などの予防になります。

 

・潜在精巣···本来陰嚢内に降りてくるはずの精巣が両側とももしくは片側のみ、体内に留まってしまっていること。

この場合、留まってしまった精巣は通常のおよそ13倍腫瘍化しやすいと言われています。

13倍とは驚きの数字ですよね。

なので、潜在精巣に気付いたら早いうちに去勢手術を行うことが勧められています。

体内に残された精巣に繁殖能力はないので、残しておいても腫瘍化への不安が残るだけです。

 

・肛門周囲腺腫···肛門の周りや尻尾の付け根辺りの肛門周囲腺というところに腫瘍ができることです。

腫瘍そのものに痛みがない場合もありますが、気になってしまい執拗に舐めたり、こすりつけたりすると出血、感染が起こると悪臭を放つようになります。また徐々に大きくなり、排便障害を引き起こすと、動物自身も不快でQOL(生活の質)も著しく低下しますよね。

肛門周囲の腫瘍の約90%が良性でこれを肛門周囲腺腫と呼び、残り約10%が悪性で肛門周囲腺がんです。

この割合を聞くと少し安心してしまうかもしれませんが、良性でもQOLの低下などもありますし、悪性の10%に入ることも十分に考えられます。

予防することができるのであれば、予防するに越したことはありませんよね。

 

・前立腺肥大···前立腺が大きくなり尿道や直腸が圧迫され、排尿、排便障害が起こります。

何度もおしっこをしようとするのに出ていない、いつもより量が少なく回数が多い、平たい形の便が出たというときはこの病気が疑われます。

排尿が全くできなくなると命にも関わるので注意が必要です。

 

肛門周囲腺腫も前立腺肥大も未去勢の高齢犬に起こりやすく、男性ホルモンの影響だと考えられているので、去勢手術が効果的です。

高齢になって問題が起きてから麻酔をかけて手術を行うよりは、若くて元気なうちに行っておいた方がリスクも費用も抑えられます。

男の子の病気の話では犬のみのことがほとんどで、猫ではあまりこれらの病気はみられません。

では、男の子の猫の飼い主さんが去勢を考えるのはどういった理由からでしょうか?

 

必要な理由2:問題行動の抑制

男の子の猫の飼い主さんは、これを目的に手術を希望されることが多いです。

これには色々な意見がありますが、癖付く前の早い段階であれば手術することにより抑制、軽減できるのではないかという意見もあります。

性による問題行動の例として

 

・マウンティング(他の犬の上に乗り腰をふる)

 これは上下関係を表すためにやることもあります。

・足をあげての排尿、スプレーマーキング

・鳴き声

・攻撃的になる、男の子同士のケンカ

・脱走

・望まない交配

 

などがあります。

主に男の子の問題が多く、ホルモンの影響が考えられるので、これらの行動がみられる前の手術であれば、効果的である可能性が高いです。

しかし、既にこれらの行動が頻繁にみられるようであれば体がその行動を覚えてしまっているので、手術による改善は難しいと思われます。

 

必要な理由3:ストレスの軽減

犬も猫も子孫を残せるよう定期的に発情するようになっています。女の子は発情期があり、男の子はその女の子の発情期のにおいに反応して発情します。

男の子は女の子のところに行きたくて脱走したり、散歩中に引っ張ったりすることもあるでしょうし、猫の発情期の鳴き声はすごいですよね。

近くの家から発情中の女の子のにおいがするのに家から出られない、発情期なのに男の子のところにいけないことは動物にとって多大なストレスになります。

また、それと同時に一緒に生活し、その発情による行動に対応しなければいけない飼い主さんのストレスにもなりますよね。

さらに、女の子のわんちゃんは定期的に発情出血があり、人間のように高齢になったからと終わることはありません。

ほとんど出血量がなく、気付かないぐらいの子もいますが、マナーベルトを使ったり犬用ヒートグッズを付けたり、きちんと対策をしないといけない子もいます。

また発情中はお散歩時にも他の男の子に注意を払う必要があり、ドッグラン、ペットホテルなどは利用できないところもあります。

月に1回というわけではなく6~10ヵ月に1回ほどですが、その度に気を付けるのも大変ですよね。

避妊手術をすればもちろん発情出血もなくなるので、飼い主さんのこういったプチストレスも軽減されます。

 

避妊・去勢手術のデメリットは?

ここまでは手術を行った方がよい理由をあげてきましたが、手術をするデメリットももちろんあります。デメリットがなければみんなやっていますもんね。

手術による痛み、手術費用がかさむなどの他にどのようなデメリットがあるのか一緒にみていきましょう。

 

デメリット1:麻酔のリスク

 

これは人も動物も関係なく、手術を受ける場合は必ずあるリスクです。

100%安心、安全な麻酔はないので、実際にかけてみないと何があるのか分かりません。

術前になにか他に問題がないか血液検査等を行ったとしても、麻酔薬に対するアナフィラキシー(全身にあらわれる重篤なアレルギー症状)は検査で予想することはできません。

いくら万全の体制で臨んだとしても予期せぬことが起こることもあります。

動物看護師として数年間勤め、避妊・去勢手術もたくさん立ち合ってきましたが、私自身は麻酔によって避妊・去勢手術中に亡くなった子は見たことがないです。

しかし実際にとても元気で健康な子犬の去勢手術で急変して亡くなったという話も聞きます。

何でもないただの去勢手術だと思って送り出していた、飼い主さんのショックは計り知れないですよね。本当に少ない事例だと思いますが、それがおうちの愛犬・愛猫かもしれません。

こればかりは誰にも分からないですし、予測もできません。

頻繁に起こることではないので、過度に怖がり必要な手術・処置まで拒否するようなことがあってはいけないと思いますが、麻酔のリスクは0ではないと頭の片隅では覚えておいてください。

手術、処置を行うメリットと麻酔のリスクを比べ、どちらが上か考え、相談して麻酔に臨むのか決めてくださいね。

 

デメリット2:太りやすくなる

 

これは本当に多いので、避妊・去勢手術後に飼い主さんに気を付けてもらうように退院時に必ずお願いしています。

ホルモンの影響や性機能に使っていたエネルギー消費がなくなるので、術前と同じごはん、おやつ、運動量でいくと危険です!みるみる太ります!

人間でも肥満は病気だという認識が根付いてきていると思いますが、動物も同じです。他の病気のリスクも上がりますし、麻酔のリスクも太っているだけで高くなります。

1度太ると痩せるのは大変なので、太らないように気を付けましょう。

避妊・去勢後に太るというのは、広く一般的に知られているので、色々なフードメーカーが対策をしたフードを販売しています。

退院時にそのフードの小袋サンプルをお渡しする病院も多いのでぜひ試してみて、気に入ってくれるならそのごはんに変えてみるなど、術後は太らないように気を付けてあげる必要があります。

 

デメリット3:子孫を残せない

 

当たり前ですが、1度手術で取ってしまったものをもとに戻すことはできません。

避妊手術で卵巣・子宮を、去勢手術で精巣を取ってしまったら今後一切子孫を残すことはできなくなります。

術後、長く一緒に暮らすうちに「やっぱりこの子の子どもが欲しい」と思っても誰にもどうすることもできません。

一般家庭で交配させて繁殖する方は最近ではあまり見かけませんし、簡単ではありません。

それでももしかしたら繁殖させたいと思う可能性のある方がご家族にいらっしゃるのであれば、「手術しなければよかった…」と後悔しなくてもいいように家族全員でしっかり話し合い、全員が納得できてから手術をするようにしましょう。

 

まとめ

致死的にもなる病気の予防や、性衝動による問題行動・ストレスの抑制、軽減のために早いうちの避妊・去勢手術が望ましいです。

ただし、麻酔のリスクは0ではなく、術後は太りやすくなるので注意が必要になります。

そして1度手術をすると2度と子どもを産ませることはできないので、少しでも繁殖の希望があるのであれば、手術は考えるべきです。

しかし動物医療に携わる人間ならおそらく、よっぽどの理由がない限り生後6ヶ月齢頃には避妊・去勢手術を行うように勧める思います。

この時の手術の痛みや費用よりも、病気になった時の痛み、費用の方がずっとひどいし高額だと身をもって知っているからです。

この意見を参考に早期に避妊・去勢手術をするのが可哀想なのか、しない方が可哀想になるのか考えてみてくださいね。