歯みがき指導もやっていた動物看護師と学ぶ!わんちゃん、ねこちゃんの歯みがき講座!!

わんちゃん、ねこちゃんを家族として大切に飼う人が増え、獣医療も発展し、平均寿命もぐんと長くなりました。それに伴い、出てくる健康問題も増えてきています。

歯の問題もそのうちの一つです。そんな歯の重要性、ケアの仕方を一緒に学んでいきましょう。

 

わんちゃん、ねこちゃんの口内問題

動物病院に勤めている時も歯のトラブルで来院される方は多く、1週間に4件以上麻酔をかけて歯の処置をすることもありました。

人間と同じで命に直結するような問題ではないかもしれませんが、長生きする上で歯は欠かせないものであり、QOL(生活の質)にも大きく関わってきます。

わんちゃん、ねこちゃんの口の中はph(酸性やアルカリ性を表す数値)が人間と違うので、基本的に虫歯にはなりません。

しかし、人間と同じように歯周病になることはあり、さらに言うと人間よりも歯周病になるリスクが高いのです!

 

わんちゃん、ねこちゃんの歯

犬の歯は42本、猫の歯は30本あり、その形状も平たい人間の歯と比べると、鋭く尖っています。

中でも裂肉歯と呼ばれる、その名の通りお肉を切り裂く役割を果たす歯が第4前臼歯と第1後臼歯です。わんちゃん、ねこちゃんが少し固いものを噛む時などに顔を傾けて奥歯で噛んでいるのを見かけると思うのですが、その時に使っている歯です。

その機能と奥にあることもあり、圧倒的にこの裂肉歯、特に上の歯である第4前臼歯が歯石だらけになっていることが多いです。

よく使い、汚れやすいのに磨きにくい位置にあるので仕方がないのですが、歯の白い部分が見えないほど歯石に覆われていることも珍しくありません。

また歯の数は、大型犬も小型犬も同じなので、小型犬はあの小さな口の中に歯が隙間なくぎっしり生えています。

それに比べ大型犬は歯の並びにも余裕があるので、歯石がつくことが少ないと言われています。

大型犬に比べ、小型犬を飼う人が圧倒的に多いという背景もあり、歯の問題も増え、注目されてきています。

 

歯石がつくまで

ごはんやおやつのカスなどが歯や歯間に付着したものが数時間で歯垢に変わります。

この段階ではきちんと歯みがきをしてあげることによって落とすことができますが、この時に落とすことができず、時間が経ち歯石になってしまうと、いくら必死に歯みがきをしても落とすことができなくなってしまいます。

人間と同じようにスケーラーと呼ばれる機械を使い、スケーリングをしないと綺麗にすることはできません。

歯垢から歯石になる期間は人間では約1ヶ月ほどかかるようですが、犬は3~5日、猫でも1週間ほどと短期間なので、人間よりも犬猫の方が歯周病になりやすいのです。

それを防ぐためには最低でも3日に1回こまめな歯みがきが必要になります。

 

歯石が原因のトラブル

歯石が付いて汚れている、少し臭う程度で済むならまだいいのですが、その汚れにより炎症が起こり痛みが出てくると、ご飯を食べられなくなることもありますし、痛いので口周りを触られると怒るようになります。

またその汚れによる菌が歯根(歯の根元)までいってしまうと歯根部に膿が溜まり、根尖膿瘍と呼ばれる状態になってしまいます。

ちょうど第4前臼歯の歯根部が顔の目の下あたりなので、その部分が膿によって腫れ、さらに放っておくと穴が開きそこから膿が出てきます。

歯の状態に気付かず、目の下にケガをしていると連れてこられる飼い主さんも結構いらっしゃいました。さらにひどくなると、顎の骨が折れることもあります。

そこまでひどい子はなかなかいませんが、顎骨折なんて聞いただけで恐ろしいですよね。

 

スケーリングの全容

スケーリングを行うときは、動物達に「口を開けたままじっとしてね~」と言ってしてくれるはずがないので、基本的に全身麻酔をかけての処置になります。

麻酔をかけずにスケーリングを行っているトリミングサロンなどもあるようですが、見える範囲の表面上は綺麗になると思うので美容面では良いのかもしれませんが、医療面のスケーリングは歯と歯肉の間を特にしっかり行わないといけないので覚醒下では難しく、どうしても麻酔をかけての処置になります。

やることとしては、スケーラーの水圧で歯にこびりついている歯石を削り落とし、歯石を取ったことによりぐらぐらする歯や歯肉が痩せ細ってしまい歯を支えられないところは抜歯をします。

抜歯をしたところは小さい歯だとそのままでも大丈夫ですが、抜いた穴が大きい場合は縫合をします。

早い段階なら抜歯をせずに済むことも多いのですが、ひどい状態になってからの場合、歯の大部分を失うことも珍しくありません。

ほとんどの歯を抜歯、もしくは全抜歯になり歯が1本も無くなってしまったとしても、食べられなくなることはないですし、痛い思いをしているよりはずっと良いと思うのですが、やはりないよりはある方がいいですよね。

スケーリング自体はめずらしい処置ではありませんし、どの動物病院でもよく行われていますが、歯を抜くとなると結構出血も多いですし、犬歯を抜くと鼻血も出ます。処置後も出血がしばらく続くので、飼い主さんの視覚的ダメージも少なからずあると思います。

また場合によっては、抜かなければならないほど悪くなっている歯だけれど、なかなか抜けないこともあり、すごく時間がかかることもあります。

つまり麻酔時間も長くなり、身体への負担も増えます。

スケーリングと聞くと、とても簡単そうに聞こえますが実際は違います。

出血もするし、麻酔による負担もあり、費用もかかります。

やらなくていいに越したことはないので、スケーリングをしなくてもいいように、抜歯をしなくてもいいように、毎日の歯みがきをしっかりするようにしましょう。

 

歯みがきの練習スタート

では、ここから実際に歯みがきの仕方を学んでいきましょう。

まずは歯みがきの練習をする際に守ってほしいルールがあります。

 

① いきなり歯ブラシを使わない

歯ブラシをいきなり目の前に持っていくとおもちゃだと思って噛んでしまうこともありますし、さらに口の中に無理矢理入れてしまうと怖がって、嫌になってしまうこともあるので慣れてから使うようにしましょう。

 

② 少しでも出来たら、大げさなぐらいめちゃくちゃ褒める!

これが1番重要かもしれません。

わんちゃん、ねこちゃんも飼い主さんが大好きで、褒められると嬉しいです。無言でやられて怖い時間を過ごすより、優しく「すごいね!上手だね~」「えらいね!」と声かけされながらの方がポジティブな気持ちになり、楽しい時間になります。

終わってからご褒美におやつをあげたりしてもいいですね。

歯みがきは毎日のことになるので、お互いに嫌な時間ではなく、楽しくできるように歯みがき好きになってもらえるように工夫しましょう。

 

③ 練習はリラックスタイムに

絶対にご飯を食べてすぐに磨かなくちゃ!」と思わなくて大丈夫なので、落ち着いてできる時間にやりましょう。お腹いっぱいでゴロゴロしてくれているなら狙い目ですが、逆に力が出て走り回っているときに無理に捕まえてやるのはきっと暴れるでしょうし、お互い危険です。

歯みがきでケガをしたら、元も子もないので気を付けてくださいね。

子犬子猫やどうしても落ち着かない子は、眠そうなときや散歩で存分に走らせて疲れさせてからやるのがおすすめです。

以上3点です。

 

簡単なことばかりですが、歯みがきすることに夢中になってしまうと忘れてしまうこともあるので、練習するときは意識するようにしてくださいね。

あと「猫も歯みがきするの?」とよく聞かれましたが、ねこちゃんのスケーリングも抜歯も多かったので、出来るに越したことはないです。

ただ、ねこちゃんは性格上1度嫌になってしまったら、もう絶対やらせてくれない子も多いと思うので、無理に押さえつけたりは禁物です。

わんちゃんよりずっと難しいと思いますが、少しずつ慣らして時間をかけてゆっくり出来るように目指しましょう。

 

歯みがきまでのステップ

歯みがきの練習といっても、初めは歯ブラシも歯磨き粉も何もなくて大丈夫です。

当たり前ですが、わんちゃん、ねこちゃんには歯みがきをするという概念がなく、何をされるのか分からない状態です。普段あまり触られないので、口周りを嫌がる子も多いです。

リラックスしながら飼い主さん自身の手を使って、「怖いことはしないから大丈夫だよ」と教えてあげて慣らしていくことから始めましょう。

 

STEP 1:触られることに慣れる

まずは口周りを触ることに慣れてもらいます。

リラックスして寝そうなとき、近くでゴロゴロしているときなどに頭をよしよししてあげたりしますよね?その時にさりげなく、顔周りから口周りも触ってあげてください。

優しく声かけをすることもお忘れなく。

これを難なくできる子は次のステップです。

 

STEP 2:歯に直接触ってみる

次は口周りを触ったときに唇をめくり、歯に直接触れてみましょう。

初めはすぐに触ることのできる犬歯などで大丈夫です。慣れてきたら、第4前臼歯やもっと奥の歯まで指をすっと入れてみましょう。

このときも少しでも出来たら大げさに褒めてあげてくださいね。

 

STEP 3:歯みがきシートなど指に巻き付けられるグッズを使ってみる

次は歯みがきシートのようなものを指に巻きつけて、実際に歯を拭いてみましょう。

この時、しっかり巻き付けないと誤食の原因にもなるので、出来るだけ固く巻いて飲み込んでしまわないように気を付けましょう。

またシートの端が手から出てひらひらしているとおもちゃだと思い、テンションが上がってしまうこともあるので、出来るだけ指に巻いて口にいれるまで隠しておきましょう。

シートが難しければ好きな味の歯みがきペーストなどを、指に少量つけて歯に塗り広げて

もいいですね。

まだ指にだけ慣れている状況なので、ここで急に歯ブラシなど固いものを入れるのはNGです。

びっくりして怖がったりしてしまうと、せっかく指には慣れてきたのにまたSTEP1からやり直しになってしまうかもしれません。焦らずゆっくり慣らしていきましょう。

 

STEP 4:手袋状、指サック状のもので磨いてみる

シートで問題なくすべての歯を拭けるようになったら、指にはめる手袋のようになっているものや指先につける指サックにブラシが付いているようなものを試してみましょう。

最終的に固い歯ブラシを使えるのを目標に、柔らかいものから徐々にレベルアップしていくように、使うグッズを変えていきましょう。

 

STEP 5:歯ブラシを使ってみる

指サックの歯ブラシなども問題なくできるようになったら、最後はついに歯ブラシデビューです!

歯ブラシを使い始めると言っても、いきなりすべての歯を歯ブラシで磨くのではなく、触ることに慣れさせた時のように少しずつ出来るところから磨いていきましょう。

使う歯ブラシは、おうちの子の口に合ったサイズのものを選んであげてください。

わんちゃんであれば、小型犬から大型犬まで大きさが様々なので口の大きさも全く違ってきます。

小さい子は口の奥を磨くことが難しいので、360度ブラシになっているものを使ってみてもいいかもしれません。

歯ブラシにもすっかり慣れてきたら、歯と歯肉の間もしっかり磨いてあげてくださいね。難しいと思いますが、そこまで磨くことができるようになれば完璧です!

先ほどもお伝えしたように、わんちゃんの歯垢が歯石になるのがだいたい3~5日間なので、3日に1回はすべての歯を磨くことができるようにしましょう。

1日で全部の歯を磨いて2日お休みもよし、3ヶ所にわけて1日1ヶ所磨くのもよし、2日で半分ずつ磨き1日お休みもOKです。続けることが大切なので飼い主さんがやりやすいようにしてくださいね。

 

⇒わんちゃん・ねこちゃんのカンタンデンタルケア特集

 

おまけ:歯みがきガムの効果的なあげ方

歯みがきグッズの代表といえば、おやつにもなる歯みがきガムですよね。

いろいろな味や種類があり、愛犬も喜ぶし歯みがき効果もあるなら一石二鳥!

そんな歯みがきガムもあげる時に一手間加えるだけでガムの歯垢を落とす効果がぐんと上がります!

それはなんと「手で持ってあげる」だけです!

おそらく歯みがきガムをあげているほとんどの方が、あげる時にわんちゃんに渡して好きに食べさせていると思います。

それを飼い主さんが手でしっかりと持って、わんちゃんの噛んでほしい歯のところに誘導してあげるのです。わんちゃんにも右側でよく噛む、左側でよく噛むという噛み癖がある場合もあるので、どちら側の歯も均等に使うように飼い主さんがガムを動かしてあげてください。

たったこれだけで、いつものおやつのガムが少しでも歯垢を落としてくれたらいいですよね。

食べ終わるまで手でずっと持っとくほど暇ではない」と言う方もいらっしゃるかもしれませんが、ぜひ1度試してみてください。

まとめ

・犬3~5日、猫1週間ほどで歯垢が歯石に早変わり!その前に歯みがきを!

・歯の汚れ、放っておくと顔に穴が開いたり、顎骨折の恐れも!

・スケーリングすると痛み、出血、麻酔の負担、費用もかかる

・歯みがき練習は、いきなり歯ブラシを使わず、大げさなくらい褒め、リラックスしながらする

・手で口周り触る→歯を触る→シートなどで拭く→指サックで磨く→歯ブラシデビュー!

・歯みがきガムは手で持ってあげる

ということを紹介させていただきました。

 

ごく稀に「仰向けにして歯の裏側まで磨けるよー」という方もいらっしゃいましたが、大半の方がうまく出来なくて悩んでいました。

私も動物病院に勤めて何度もスケーリングに立ち会いましたが、せっかく綺麗にして終わっても、歯みがきが出来ないので結局またすぐに歯石がつき、1年に1回スケーリングをするようなこともありました。

確かに老犬・老猫を今から歯みがきに慣れさせるのはなかなか根気がいり、至難の技です。

しかし、スケーリングの度に血まみれになり、痛みもあり、麻酔のリスクを背負うことを考えると少しずつでも出来るように練習して、少しでも愛犬・愛猫の負担を減らしてあげられるように頑張ってみましょう。