動物看護師が伝えたい犬を穏やかに看取るためにしておくべき準備
犬を「看取る」とは?
家族の一員である愛犬との死別は悲しく辛い気持ちになるため、「今は考えたくない」と思う飼い主さんがほとんどなのではないでしょうか?
しかし、老衰なのか、病気による最期なのかといった違いもありますが、いざ愛犬を看取る段階になると、「愛犬のために何をしてあげればいいの?」と戸惑う飼い主さんは少なくありません。
「看取り」という言葉には、
・生涯の最期そのもの
・病気になった時に最期まで看護(お世話)をすること
・亡くなる時までそばで見守ること
・できるだけ苦痛やストレスを抱えることなく最期を迎えられるよう手助けすること
など、さまざまな意味が込められています。
若い頃に突然お別れしなければならなくなった場合を除き、愛犬が老犬期に突入して老化のサインが見られたり、持病を抱えることになった場合は、どうやって愛犬に生涯の最期を締めくくらせてあげるのかを考えることも、飼い主さんに必要となる準備です。
もくじ
愛犬を看取る準備をしておくべき理由
愛犬を看取る飼い主さんの戸惑いや後悔を減らすため
愛犬の看取りについて考えるべき理由がいくつかありますが、その中でも大きいものとして、犬を見送る飼い主さんの気持ちを整理することがあげられます。
老衰や病気の末期により愛犬の最期が近づいてきてから「してあげたいこと」や「すべきこと」を考えようとしても、飼い主さんや家族に精神的な余裕があることは少なく、残された時間が足りないこともあります。
愛犬を見送った後に「もっとたくさんしてあげられることがあったのに…」という後悔の気持ちが生まれることは、たとえ準備していてもゼロになることはないかもしれません。
しかし、あらかじめ愛犬の看取りに向けて準備をしておくことで、戸惑いや後悔が少なくなり、「愛犬のために最期まで頑張って見守ることができた」「できることはしてあげられた」という思いが生まれることも確かです。
愛犬に最期まで安心感を与えてあげるため
老犬期になると、
・目が見えない(視力の低下)
・耳が聞こえづらい(聴力の低下)
・立ったり、歩いたりすることが自由にできない(筋力や関節可動域の低下)
・自分が置かれている状況がよくわからない(脳の認知機能の低下)
などの身体機能の低下が起こりやすく、「できないこと」が増えるにつれて、犬の不安な気持ちや戸惑いが表に現れやすくなります。
その上さらに病気による痛みや不快感が加わると、信頼する飼い主さんに助けを求めたくなることも増えるでしょう。
しかし、そんな時に飼い主さんがオロオロとしたり、落ち着かない様子でいると、犬はさらに不安を感じてしまいます。
犬と長く一緒に暮らしてきた飼い主さんなら実感することも多いものですが、犬は人の感情をよく察する動物です。
飼い主さんが冷静に「大丈夫だよ」「そばにいるよ」と落ち着いて声かけや触れ合いをしてくれる方が、最期の瞬間まで穏やかな気持ちで過ごせるのではないでしょうか。
愛犬とのお別れが慌ただしいとゆっくり悲しみに向き合えないため
人が亡くなった時にも言えることですが、お見送りをするということはただそばにいれば良いというわけではないことがほとんどです。
特に犬の場合は公的な補助制度も整備されていないため、自分でトイレに行ったり、ごはんや水を口にすることができなければ、飼い主さんがさまざまなお世話を家族だけでしなければいけない機会も多いはずです。
また、お見送りをした後は葬儀会社を選んだり、書類の手続きや愛犬が亡くなったことを親しい人に知らせたりと、慌ただしくしてしまうこともあります。
ところが、慣れないことに翻弄され、最期にゆっくりとお別れができないまま見送ってしまうと、悲しみに浸る間もなく愛犬がそばからいなくなってしまい、飼い主さんの気持ちにぽっかりと大きな穴が開いてしまうケースがよく見られます。
愛犬を穏やかに看取るためにしておくべきこと6つ
1.愛犬に「してあげたいことリスト」を作る
まずは、「もっと○○してあげれば良かった」という思いを減らすための準備です。
愛犬が若い頃から好きなものや、してあげると喜んでくれたことを書き出し、愛犬の体の状態に合わせながら、できる限り最期まで継続してあげたいことを探してみましょう。
愛犬が年齢を重ねてできないことが増えたとしても、
・歩行器や歩行介助ハーネス、ペットカートを使い散歩に連れ出してあげる
・室内の日が当たる場所で日向ぼっこをする時間を確保してあげる
・室内で優しく声をかけながらマッサージをしてあげる
・体を支えて立った状態でこまめにトイレをさせてあげる
などのように、飼い主さんが手助けをしながら犬が本能として求めること、気持ちのハリにつながることを止めずに続けてあげるのも、生活の質を最期まで維持するためには大切なポイントです。
犬の病気の看護や介護をしていると、愛犬の健康状態や症状が悪化するにつれて飼い主さんの生活や精神面に負担がかかることもあります。
ですが、してあげたいと思ったことを全部やり切った末のお別れは、愛犬への「ありがとう」という気持ちや、「自分にできる全力でちゃんと見送ってあげられた」というほっとする気持ちにつながることも多いものです。
2.治療をどこまで行いたいか家族で相談しておく
老衰や病気の最期にどんな症状が現れるのかは、同じ病気・老化現象であっても犬によって異なるため、はっきりとは分かりません。
しかし、
・脱水
・けいれん
・呼吸困難
・痛み
・食欲不振
など、愛犬にどんな最期が訪れる可能性があるのかを知っておき、どこまで治療を行いたいかを家族で話し合っておくことは大切です。
特に、いわゆる「延命治療」と言われるものの線引きは、一緒に暮らしている家族であっても認識が異なる場合があります。
・ごはんが自分で口に運べなくなった犬に、シリンジで給餌を行うこと
・経食道や胃ろうなどのチューブを使った栄養補給を行うこと
・自分で水を飲めなくなった時や腎不全が起きた時に、点滴で脱水状態を改善すること
・呼吸が苦しくなりやすい犬のため、酸素室を自宅に設置すること
これらは、人によっては延命治療だと捉える人もいれば、愛犬を最期に苦しめないために必要な緩和ケアだと捉える人もいてさまざまです。
例えば、胃ろうチューブの設置などは拒否感を示す人も多いですが、大きくなった口腔がんなどを理由として口から食事をとることが辛い犬にとっては、痛みを感じることがなく、食事へのストレスが低減される食事方法であり、栄養を取ることで全身状態が改善して、穏やかな最期を迎えることができる場合もあります。
また、犬の体調が急変した時に行う心肺蘇生処置も、「これ以上苦しめたくないからやらない」という人もいれば、動物病院にいて「せめて家族が来るまで持たせてほしい」と希望する人もいます。
ここで大切なのは、家族間で話し合うことで得る結論に「治療を行うことが正解か」「不正解か」といった白黒をつけるために行うのではないということです。
家族の中で「したい」「したくない」の認識のずれを作らず、「私はしてあげたかったのに!」と本来悲しみを分かち合うべき家族の間でひずみができないように、相談して心積もりをしておくのだということを忘れないようにしましょう。
3.「どこで」「誰と」愛犬を看取りたいかを考えておく
愛犬を看取る場所と言えばかつては自宅がほとんどでしたが、最近では獣医療の発達により、ギリギリまで動物に医療を提供することも可能になってきました。
しかしその分、自宅で看取るのか、動物病院で看取るのか迷う飼い主さんも出てきています。
「絶対に慣れ親しんだ自宅で!」と思っていても、いざ犬の状態が悪化してくると悩むことも多いため、それぞれのメリットを把握した上で検討しておくと良いでしょう。
【自宅で犬を看取るメリット】
・犬にとっては安心感が強い場所であり、移動の負担もない
・飼い主さんが愛犬とのお別れに際し人目をはばかったり、他人に気を遣わずに済む
・愛犬に面会してもらう人の制限がない(呼びたい人を好きなだけ、時間制限なく呼べる)
【動物病院で犬を看取るメリット】
・ギリギリまで犬に医療を提供できる
・飼い主さん家族だけで看取る不安を感じなくて済む
・判断に迷った時にすぐに愛犬の状態を診てもらい、アドバイスを受けることができる
基本的に、自宅で看取る場合は24時間愛犬のそばにいることが可能ですし、飼い主さんが感情を自由に表に出しやすい一方で、「何だか愛犬が苦しそう…」「この看取り方で良いのだろうか」と不安を感じた時に、自分で対処しなければいけない場面も増えるかもしれません。
動物病院でも、仕事がどうしても休めず、愛犬を自宅にひとりだけで残しておくよりはせめて人の目があるところに置いてあげたいという事情がある人には良い一面もあります。
ただし、入院が長引くにつれて費用がかさんだり、愛犬が亡くなる瞬間に立ち会えないリスクもあるでしょう。
愛犬の体の状態や飼い主さんの家庭環境に合わせて、どこで、誰と愛犬を看取ってあげたいのかよく考え、選択してみましょう。
4.愛犬の看取りがしやすいよう仕事の調整をしておく
愛犬の最期が近づいてきた時には、体調の急な変化のため見守ったり、1日のうちに介護に当てなければいけない時間が長くなることも多いでしょう。
また、病状によっては通院頻度が増えるなど、愛犬のために仕事をする時間を調整しなければいけないことはよくあります。
今、自分が働いている職場の勤務時間や行っている仕事量を、どこまで調整することができるでしょうか?
周囲の仕事仲間から、愛犬の看護や介護に関して理解を得られる環境でしょうか?
今はまだ愛犬が元気でも、もしもそばについてあげる必要が出てきたら…と今のうちから家族で考え、将来に向けて計画を立てておくことも大切です。
5.家族だけで看取ることが大変なら専門家の手も借りる
老犬の最期の時に、病気の看護や介護を家族みんなで分担して行うことは大切ですが、もしも睡眠時間がしっかり確保できなかったり、気分転換する時間もとれないようなら、飼い主さんの心と体の健康状態まで悪化する危険があります。
穏やかに看取ってあげたいと思っても、飼い主さんの心と体に余裕がなければ優しい気持ちになることは難しく、冷静な判断も下せないかもしれません。
そういった時には、最近増えてきている老犬に対応したサービスをどんどん活用し、「誰かと一緒に看取る体制」を整えることも検討しましょう。
地域によってサービスの有無に違いはありますが、
・かかりつけの動物病院での預かり(介護対応のデイケアや入院対応を含む)
・自宅に訪問してくれるペットシッター
・老犬介護施設での一時預かり(デイケアや短期預かり)
など、最近では選択肢も増えています。
専門的な知識を持った人であれば、愛犬の看護や介護状況を見て、「こうした方が飼い主さんも楽になる」「犬にとっても快適」といった、より良いアドバイスをくれるかもしれません。
愛犬の体調が悪化する前から試しに利用してみたり、事前にどんなサービスを提供する業者があるのかを調べておくと、いざという時に役立つでしょう。
6.葬儀の方法や愛犬を見送った後に必要な手続きを調べておく
できれば、愛犬が亡くなった後の流れも知っておくと、慌ただしいお見送りにならずに済みます。
特に、愛犬が亡くなって悲しい気持ちを抱える中で
・どの葬儀会社が良いところなのか?
・葬儀方法やお墓の有無の希望は?
・用意したいメモリアルグッズはある?
・火葬する前に愛犬に会っておいてもらいたい人はいる?
・ペット保険の解約手続き方法は?
・役所への死亡届はどうやって提出する?
といったことを準備したり、調べようとして時間を割いてしまうと、「火葬する前にもっと愛犬の毛の感触をなでて確かめておけば良かった…」「もう一度抱っこしたり、写真を撮っておけばよかった…」などの後悔につながりやすくなります。
愛犬が亡くなった直後は自分の気持ちにゆっくりと向き合えるよう、どのタイミングでどうやって手続きを踏むかといった流れ、愛犬の遺毛など残しておきたいものをある程度決めておくことをおすすめします。
ペットロスへの心の準備も必要
近年は犬も家族の一員として迎えられることが当たり前となり、お別れした後に「ペットロス症候群」に陥る飼い主さんも増えています。
愛犬の看取りを考えて準備することは、人の分野で話題になっている「終活」であり、ペットロスと向き合うための準備とも言えるでしょう。
本来、ペットロスとは愛する動物を亡くした体験や、飼い主さんが抱く悲しみの感情そのものを指し、お別れを経験すれば誰もが大なり小なり抱えるものです。
ペットロスから飼い主さんが立ち直るまでに要する期間は、人で言う「喪中」期間に当たります。
しかし中にはペットロスが長引き、精神疾患として飼い主さんを苛むようになるケースも少なくありません。
愛犬とのお別れをした後は、
・必要であれば仕事や家事を休む
・泣きたい時に泣く
・眠れる時に寝て、食べられるものを食べる
・誰かに辛い気持ちを打ち明ける
など、無理をしないで済む環境を整えておくことが大切です。
自分の気持ちを無理やり抑え込み、愛犬との思い出にふたをしてしまうと、ペットロスからの立ち直りに時間がかかってしまうことが多いので、自分自身も含め、家族の中でいつもと様子が違う人がいれば、一度立ち止まって休息をとれるようフォローし合いましょう。
できれば、ペットロスで悲しい気持ちを抱える間は、「自分には今、愛犬との思い出を振り返り、そそいでいた愛情を改めて確かめる時間が必要なのだ」と思い、焦らずに自分の気持ちと向き合えると良いですね。
まとめ
犬とのお別れは、絆が深ければ深いほど飼い主さんの心と体に大きな影響が及びます。
中には、「なんでもっと良くしてあげられなかったんだろう…」「いつまでも立ち直れない自分が悪いんだ」とお別れした後に責めてしまう人もいます。
愛犬を看取りや見送る方法には正解も不正解もなく、その時飼い主さんがしてあげられたことが結局のところベストな方法だったと言えるかもしれません。
ですが、事前に準備をしておくことで、穏やかな気持ちで愛犬と向き合い、最期の時間をゆっくりと過ごすことができる可能性もあります。
愛犬に何をしてあげられるのか、もしもの時をじっくりと考え、家族みんなで準備できると良いですね。
