動物看護師が教える!老犬の認知症の症状と進行を遅らせる暮らし方

 

老犬が年齢を重ねてくると気になってくる認知症。

介護が大変だと耳にしたことがある飼い主さんの中には、どんな症状が出る病気なのか、発症したらどうすれば良いのか気になっている人も多いですよね。

そこで今回は、犬の認知症で現れやすい症状と、発症した時に飼い主さんがしておくべきことをご紹介します。

 

犬も認知症になるの?

犬も認知症に「なる」!加齢により発症率アップ

 

愛犬が年老いてくると、だんだんと若い頃とは違う行動を見せることがありますよね。

 

思わず「うちの子、ボケちゃったのかな?」と心配になってしまう飼い主さんがいる一方で、どう対処すべきなのか、何か治療が必要な状態なのかよくわからないという飼い主さんも多いのではないでしょうか?

 

実は、犬でも人間と同じように「認知症」を発症し、飼い主さんによるサポートを必要とする犬がいます。

 

獣医療の現場では「認知機能不全症候群(CDS)」と呼ばれ、いわゆる認知症として知られる脳の老化によって起こる病気です。

 

人間のアルツハイマー型認知症とよく似ているとも言われていますが、その原因ははっきりとはわかっていません。

 

しかし、少なくとも加齢(年を重ねて老いること)が発症のリスク因子だとされており、

 

・11~12歳の老犬の約28%

・15~16歳の老犬の約68%

 

に何らかの認知機能の低下が認められたという海外からの報告もあります。

 

近年、日本の飼い犬たちの平均寿命は延びていますが、より高齢の犬が増えていくほど、認知症を発症する犬も増える可能性があるということです。

 

日本犬に多いって本当?

 

日本では、老犬の認知症と言えば柴犬をはじめとした日本犬に多いとされています。

 

飼い主さんや動物病院の間でも、「犬の認知症と言えば日本犬」と思うほど、そのイメージが長らくありました。

 

しかし最近の調査では、一概に日本犬ばかりが認知症になるかと言うと、そうではないという報告もあります。

 

海外の調査では、日本犬ではなくマルチーズなどの洋犬での発生率が高かったという国もあり、

 

・発症するリスク因子は犬種ではなく、あくまで「年齢」である

・その土地ごとに「病気をしないで長生きしやすい犬種」が認知症になりやすいのでは?

 

という考え方も広まってきています。

 

日本国内の調査において日本犬系の犬で認知症が多く報告されたのは、調査当時、国内で健康を保ったまま長生きしやすい犬種だったからではないかというわけです。

 

結局のところ、日本犬系の犬に多いか少ないかのどちらであっても言えることは、犬の認知症は「どんな犬種で発症しても不思議ではない」ということです。

 

老犬の認知症の症状

特徴的な症状5つ

 

愛犬の認知症に備えるためには、まずはどんな症状が見られるのかを知っておかなければいけません。

 

犬の認知症では、少し難しい言葉ですが特徴的な症状5つの頭文字をとって、「DISHA(ディーシャ)の徴候」が知られています。

 

1.D=見当識障害

2.I=社会的相互作用の変化

3.S=睡眠・覚醒サイクルの変化

4.H=家庭でのしつけを忘れる

5.A=活動性の変化

 

見当識障害」とは、方向感覚がわからなくなっていつものお散歩ルートで迷ってしまったり、飼い主さんのことがわからなくなってしまうことを言います。

 

目の前に左右に動けば簡単に避けられるはずの障害物があったり、後ずさりするだけで避けられる角があっても、どうやって避ければ良いのかがわからず、飼い主さんに助けを求めて鳴き叫ぶこともあります。

 

つまり、犬自身がその時おかれている環境や、接している相手が理解できず、対処法がわからなくなる症状です。

 

社会的相互作用の変化」では、なでられたり声をかけられても犬のリアクションが薄いなど、飼い主さんや同居動物との関わり方が変わってしまいます。

 

睡眠・覚醒サイクルの変化の初期には、夜中に寝つきが悪く、よくウロウロ歩き回るといった症状に始まり、進行すると完全に昼と夜が入れ替わって昼夜逆転の生活を送り始めます。

 

家庭でのしつけを忘れると、これまで完璧だったトイレの場所を間違えたり、粗相を繰り返すようになってしまうことも少なくありません。

 

そして、活動性の変化により、日中に寝てばかりになってこれまでルーティンのように行っていたことをしなくなったり、食欲が異常に増える、意味もなくぐるぐると円を描くように歩き回るといった異変が見られることも多いでしょう。

 

犬の認知症の症状は飼い主さんの生活を変えてしまう

 

老犬の認知症が進むほど、飼い主さんと愛犬の生活はこれまでとは一変していきます。

 

なぜなら、認知症を発症した老犬から目が離せなくなるからです。

 

・飼い主さんが不在の間に部屋の角にはまり込んで、助けてくれと鳴き叫び続ける

・粗相をしたあとに踏み荒らして、室内や老犬の体がおしっこやうんちまみれになる

・夜に眠ってくれない上に夜鳴きをするので、飼い主さんの睡眠時間が確保しづらくなる

・徘徊が止まらないが、筋力が低下しているためよく転んでケガをしそう

 

老犬の認知症が進行して、こういった症状が激しくなると、飼い主さんの仕事の仕方やライフスタイルの変化は避けて通れません。

 

ちょっと気分転換に買い物に行きたい」「趣味の時間を持ちたい」「家事をまとめてやり切ってしまいたい」と思っても、なかなか達成できなくなりがちです。

 

また、家族全員で協力して老犬の介護にあたることができれば良いですが、単身世帯や家族の協力が得られない家庭では、たった1人で介護を抱え込み、飼い主さん自身が押しつぶされてしまうことも多いのです。

 

認知症になった老犬は、「穏やかな顔をした頑固者」とも呼ばれ、「立ちたい」「歩きたい」「のどが渇いた」「不安だ」といった要求が解消されるまで、鳴き声で訴え続けることもよくあります。

 

しかし、飼い主さんがお世話をしてあげてもなんだか穏やかで優しい表情に見える顔つきのまま、嬉しい!楽しい!といった感情表現が見られなくなってしまうという症状も、認知症の犬によく見られる特徴です。

 

そのため、老犬の要求を叶えてあげても、これまでのようにしっぽを振り振りして輝くような目で見つめてくれることもなく、飼い主さんが愛犬からの愛情や意思を確認しづらくなり、介護への意欲が追いつかなくなっていくケースもあります。

 

犬が認知症を治す方法はある?

飼い主さんの生活を圧迫したり、愛犬のQOL(生活の質)が下がってしまうため、認知症をなんとか治したいと思う飼い主さんはかなり多いものです。

 

ところが残念ながら、人間の認知症と同じように、現段階で犬の認知症を完治させる治療法は見つかっていません。

 

できることは、早期に認知症を発見して、できるだけ症状が進まないように進行を遅らせるしかないのです。

 

老犬の認知症の症状を和らげる薬もいくつかありますが、あくまで対症療法にすぎず、さらにはそれも症状を「ゼロ」に抑えられる薬ではありません。

 

老犬が認知症を発症したのを確認したら、生活環境を整えて愛犬との接し方に注意を払い、栄養面の改善や、必要に応じて医薬品を利用することが大切です。

 

犬の認知症の進行を遅らせるためにできること

1. 犬の認知症チェックリストを活用する

 

老犬がそもそも認知症なのかどうかを確認したり、症状が進行してきているかを目で見てわかるように記録するには、認知症の診断でよく使われるチェックリストを活用することをおすすめします。

 

チェックリストはメーカーが独自に用意していてインターネット上に公開されているものもあるので、検索して使いやすいものを選んでみても良いでしょう。

 

(例)認知機能不全症候群セルフチェック

https://pet.benesse.ne.jp/tu/nestle/NC_DISHAA_200805.html?utm_source=poster&utm_medium=qr&utm_campaign=nc_vets

 

最も有名なのは、作成された時期が少し古いものの、「犬痴呆の診断基準100点法」(内野富弥氏作成)で、動物病院のHPなどでも公開されています。

 

愛犬の行動が気になっている人や、現在老犬の認知症の介護に向き合っていて、以前の状態と比較をしてみたい人は、ぜひ試してみましょう。

 

診断の結果、認知症の徴候である可能性が高いという結果が出たり、早いスピードで症状が進行しているようであれば、今後の対応の仕方を動物病院で相談することをおすすめします。

 

2.老犬に優しい生活環境に整える

 

認知症を抱える老犬にとって、ツルツル滑って歩きにくい床の上での生活や、暑さ・寒さがこたえるような不快感を覚えやすい室内環境はストレスにつながり、脳の老化を速めるフリーラジカルと呼ばれる物質の分泌を促してしまいます。

 

そのため、認知症を抱える老犬でも過ごしやすいと思える生活スペースを作ってあげることが、認知症の進行をゆるやかにする秘訣の1つとなります。

 

・床を滑りにくくして歩きやすさを改善する

・犬が徘徊する時に障害物と感じる家具を避ける

・筋力低下が見られる時は、つまずきを避けるために段差や引っかかりを床からなくす

・模様替えや引っ越しで犬に「知らない家」だと緊張させてしまうことを避ける

・トイレは行きやすいよう犬の生活スペースの近くに設置したり、複数用意する

・トイレがわかりやすいよう排泄可能なスペースを広げる

・室内は季節に合わせて空調をフル活用し、暑さ・寒さによる不快感をなくす

 

3.刺激のある生活を送らせる

 

変化に乏しく、刺激の少ない退屈な日々も、老犬がぼーっとする時間だけが増えていき、認知症を進行させる原因となってしまいます。

 

そのため、

 

・屋外での散歩

・室内の日当たりの良い場所での日向ぼっこ

・知育玩具を使った頭を使うおもちゃ遊び

・飼い主さんによる声かけやマッサージによる皮膚刺激

 

をどんどん実践していきましょう。

 

散歩や日向ぼっこによって日光を浴びると、老犬の体内時計がリセットしやすく、昼夜逆転生活を改善することにつながります。

 

また、自分の足で歩いて、地面からの刺激を得たり、やりたいと思ったことをすぐにできることは犬にとって大事な感覚です。

 

寝たきりになると同じ風景ばかりを見続けて退屈ですし、体内の循環が悪くなって脳に行き届く血流量も低下しがちになり、認知症が悪化してしまうこともあります。

 

後ろ足を中心とした筋力低下があって老犬だけでは歩けない場合は、特殊な歩行介助ハーネスを使って飼い主さんが歩行を手伝ったり、ペットカートに老犬を寝かせて風景を見せながら押し歩くだけでも良い刺激になるでしょう。

 

犬用の知育玩具はいろいろなものが販売されていますが、飼い主さんが手作りしてもかまいません。

 

小さめのペットボトルに穴を開けてドライフードを詰めたり、トイレットペーパーの芯の両側を潰して中におやつを入れるなど、低コストで簡単に知育玩具を作ることができます。

(※ただし、手作り玩具も含めて老犬が誤食しないように注意してください)

 

認知症の症状が進んで喜怒哀楽がわかりづらくなると、話しかけたり触れ合う頻度が減ってしまうこともあるかもしれませんが、耳に届く音や皮膚に触れる感覚は脳によく伝わります。

 

何より、認知症によって「わからないこと」や「何だか不安な気持ち」を抱える老犬には、安心感につながることが多いので、ぜひコミュニケーションする時間を確保してあげましょう。

 

4.老犬の失敗を叱らない

 

これまでできていたトイレのルールや、「おすわり」「待て」「おいで」といった基本のコマンドへの反応ができなくなっても、老犬を叱らないであげてください。

 

認知症になった犬は、「わざと失敗して注目してもらおう」「めんどくさいから従わなくてもいいや」と思ってルールを無視しているわけではありません。

 

どうすることが正しいのかを忘れたり、そもそも正しい・間違っているといった判断ができず、戸惑っているだけなのです。

 

それなのに叱ってしまうと、老犬は飼い主さんがイライラしている感情だけを素直に受け取ってしまい、大きなストレスを抱え込んでしまいます。

 

先ほど紹介したように、ストレスは認知症を進行させる物質の分泌を促してしまうため、病気の進行を抑えるためには避けてあげたいポイントです。

 

飼い主さんが自らトイレに誘導してあげる回数を増やして失敗を防いだり、目を離さなければいけない時は犬用オムツを使って室内掃除の頻度を下げるなど、飼い主さんが楽に介護できる手段を探ってみましょう。

 

また、老犬にとっても、どこまで覚えられるかは別にして、きちんとできた時に飼い主さんが嬉しそうな声でほめてくれるとその声音に気持ちが和らぐはずです。

 

何度でもトイレトレーニングに付き合ってあげるという気持ちで向き合ってあげられると良いですね。

 

5.認知症対応フードやサプリメントを取り入れる

 

対症療法として、脳の老化を防ぐ成分を多く含んだドッグフードの活用や、サプリメントで進行を抑える方法もあります。

 

認知症対応のシニア用フードやサプリメントには、

 

・EPA/DHA(オメガ3脂肪酸)

・抗酸化成分(ビタミンC、Eなど)

 

が多く含まれているものを選びます。

 

実際に認知症の犬に与えたところ症状が改善したというデータもあるため、認知症が発覚した直後からいつもの食事にとり入れてみることをおすすめします。

 

ただし、これらのフードやサプリメントの中には一般の店舗には出回らない動物病院専売品もあるので、どれを活用してみるかは獣医師に相談すると良いでしょう。

 

一般に販売されているものと動物病院専売品のものでは、各成分の含有量やバランス、質に差があるものも少なくありません。

 

症状が進行して夜鳴きや昼夜逆転が悪化するとこういったものだけではどうしようもできないこともありますが、薬物療法と同時に与え続けることは大切です。

 

まとめ

老犬の認知症は、症状が進むほど飼い主さんだけではお世話をすることが難しいこともよくあります。

 

どれだけ頑張って進行を遅らせる対処法を行っていたとしても、犬によっては進行が早いと感じることもあるでしょう。

 

そういった時には、飼い主さん1人で抱え込まず、動物病院を含む一時お預かりをしてくれる施設や、自宅にお世話にきてくれる老犬介護対応のペットシッターなども活用してみてください。

 

そして、ほどよく気持ちをリセットしながら、老犬の認知症にゆったりと付き合ってあげましょう。