動物看護師が教える老犬介護グッズの使い方!介護をもっと楽にしよう

 

老犬介護を行う時には、便利なアイテムを上手に取り入れることが、飼い主さんと犬の両方に負担の少ない介護生活へとつながっていきます。

まだうちの子は元気だから!」と思っている飼い主さんも、いつかやってくるかもしれない愛犬の老後に必要なお世話とはどんなものなのか、また、活用できるアイテムには何があるのかを知ってみませんか?

 

老犬のために介護をするメリットとは?

犬も歳を重ねると少しずつ体は老化していき、身体機能が低下したり、時には病気としてさまざまな症状が現れます。

 

すると、これまで当たり前のようにできていたことができなくなり、犬としての本能的欲求が満たせなくなることも多くなるはずです。

 

犬にとっては、なぜこれまでできていたことができなくなるのかが理解できず、日常生活における気持ちのハリが失われることで、老化が急激に進んでしまうことも少なくありません。

 

そこで、飼い主さんが愛犬のできなくなったことやできなくなりつつあることを手助けし、以前に近い状態で「できる」ようにしてあげることで、犬も自信を取り戻し、いきいきとした表情を見せてくれるようになります。

 

「したいと思ったことを自分でできる」「快適に生活できる」ことは、犬の老化を遅らせることにつながるため、愛犬の体の状態に合わせてどんな手助けが必要なのかをよく観察してあげましょう。

 

老犬になると必要になるサポート

 

1.食事の介助

 

老犬になっても元気でいるためには、ごはんをしっかり食べて、筋肉やほどよい脂肪を維持し、体重を落とさないようにすることが大切です。

 

体は食べたものから作られるため、内臓や皮膚、被毛の健康も、食事なくしては機能が維持できません。

 

しかし、高齢になるにつれて、

・舌の動きが衰えて、食器からごはんをすくいあげられない

・歯周病の進行により歯が抜けて、口の端からごはんがポロポロこぼれる

・足の筋力低下が進み、食器のある場所までたどり着けない

・立ったままや首を下げての食事姿勢が取れない

など、老犬だけでは体が必要とするだけのごはんを食べ進めることができない状態になってしまうことも多いでしょう。

 

そのため、老犬がごはんを食べやすく感じ、なおかつ1日に必要な量を食べきれるように、飼い主さんがサポートをしてあげる必要があります。

 

2.排泄の介助

 

足の筋力低下による影響は、食事に対してだけでなく、排泄トラブルも引き起こします。

 

排尿や排便をする時には体が転ばないようにバランスをとったり、踏ん張る力が必要となりますが、筋力が低下するとそれができなくなってしまうのです。

 

また、トイレケースやサークル前の段差が乗り越えられず、排泄場所がはみ出してしまうこともよくあります。

 

老犬になってくると膀胱に尿を溜められる時間が短くなったり、尿道括約筋の締まりが悪くなってポタポタとお漏らしをしてしまうことも多いので、

・トイレに連れて行く回数を増やす

・トイレのスペースを広げる

・トイレを寝床に近づけてあげる

といった対策を含めて、「排泄を失敗させない工夫」を行うことが重要です。

 

3.歩行(運動)の介助

 

自分が行きたいところに、行きたいと思ったタイミングで歩いてたどり着けることは、犬の本能的欲求を満たしたり、ストレスを溜めないためには必要なことです。

 

また、歩いて室内の居心地が良い場所に移動したり、散歩で興味のあるものに近づいてみたりすることも、犬の快適さや楽しみにつながります。

 

ところが、

・歩いている途中にふらつく、転ぶ、滑る

・前のめりな姿勢になってしまい、体のバランスがうまくとれない

・立ち上がりに時間がかかる

・歩き始めてもすぐに座り込んでしまう

といった仕草が見られるのであれば、老犬が「歩きにくいな…」「必要以上に頑張って歩かなきゃいけないから疲れちゃう」と思っているサインでもあるので、手助けをしてあげるべきタイミングがやって来たのだと理解してあげましょう。

 

「歩くとすぐに疲れるみたいだから」と散歩や遊びの時間をむやみに減らしてしまうと、犬にとっての気分転換や刺激を得る時間がなくなってしまったり、筋力や体力の低下が一気に進んでしまう恐れもあります。

 

4.寝たきりの介助

 

どれだけ歩かせることを意識して、ごはんをしっかり食べさせていても、病気や老化の進み具合によってはいつか寝たきりになってしまうことも考えられます。

 

寝たきりになった時には、寝床にただ老犬を寝かせていれば良いわけではありません。

 

・筋肉や骨が萎縮する

・関節の過剰なこわばりによって体が痛む

・体内循環が悪化する(心臓の機能低下が起こる)

・誤嚥性肺炎が起こりやすくなる

・褥瘡(床ずれ)ができる

・認知機能が低下する(いわゆる認知症が進行しやすくなる)

といった多くの影響が現れやすいので、それをできる限り避けられるようなケアを丁寧に行ってあげることが飼い主さんの役割です。

 

できないことが多い寝たきりの老犬の場合、「してほしいこと」や「今の自分が感じている不快な状況」を伝えたいために鳴くこともよくあるので、老犬の求めに応じて立たせてあげたり、食事や飲水をさせてあげることはもちろん、マッサージやストレッチ、こまめな姿勢の変更で体への負担を減らしてあげることも必要になります。

 

このように、犬の介護と言ってもさまざまなサポートが必要になるため、少しでも自宅での介護を楽にしようと思えば、使えるアイテムをしっかりと取り入れることが大切なのです。

 

老犬介護で使えるアイテム8選!

食器台・持ち手付きの食器

 

首を下げた状態で食べることが難しい老犬の食事介助を行う時には、食器を高い位置に置くことができる食器台を設置しましょう。

 

老犬の首への負担は減りますし、老犬が自分で立ったり座ったりできる力があれば、足をさほど踏ん張らなくても自分だけでしっかりと完食できるようになります。

 

口の中に運ぶことが上手にできないようなら、食器をはめ込むことができるタイプの食器台にごはんを入れた器を置いて安定させ、飼い主さんが横からスプーンで寄せながら与えてあげると楽に介助ができるでしょう。

 

寝たきりの犬など、自分で伏せの姿勢が取れなかったり、首を持ち上げられない場合は、老犬の体を起こした状態で飼い主さんが食器を口元に持っていってあげる必要があります。

 

そんな時には、老犬がごはんをゆっくり食べても食器をしっかり支え続けられるように、持ち手付きの食器を活用すると飼い主さんの疲労感が減り、手から食器が滑り落ちにくくもなります。

 

シリンジ

 

自分で口にごはんを運ぶことができない場合には、シリンジ(針のついていない注射器)を使った給餌方法でサポートできます。

 

シリンジには1ml、2.5ml、5ml、10ml、20ml、50mlとさまざまな容量のものがありますが、食事用に使うのであれば10ml以上のサイズを選ぶことをおすすめします。

 

シリンジの使い方は、

1.内筒を抜いて空いたスペースにスプーンでごはんを詰める

2.内筒を差し込んでごはんを先端まで押し出す

  ※お皿に向けて押し出すと、中身が急に飛び出しても壁や床が汚れない

3.犬の犬歯の後ろのスペースにシリンジの先端を差し込み、少量のごはんを押し出す

  ※最初にどのくらいの力で押したらどれくらいの量のごはんが出てくるのか確かめておく

4.シリンジの先端を犬の口から離す

5.犬がモグモグと口を動かしながら食べて、飲み込んだのを確認したら次の1口を入れる

といった簡単なものです。

 

ただし、犬の口に収まらない量を一気に入れると口からこぼれてしまったり、誤嚥や窒息につながる可能性もあるので注意しましょう。

 

50mlサイズのシリンジであれば一度にたくさんの量のごはんを詰めることができますが、手が小さい女性の場合は片手で押し出しづらいことも多いので、20mlサイズまでに留めておくと良いですね。

 

先端の穴が太く、長い形状になっているシリンジであれば、完全な流動食でなくても詰まることなく押し出せるので便利です。

 

そして、ごはんをシリンジに詰めて、食べさせて…をくり返すと食事に時間がかかってしまうので、あげる予定分のごはんはすべて最初に複数本のシリンジに詰めて用意しておきましょう。

 

シリコン製トイレマット

 

一般的なトイレケースや、サークルの中に設置したトイレに向かう時の段差を乗り越えにくくなった時に活躍するのが、シリコン製のトイレマットです。

 

レギュラーサイズ、ワイドサイズのペットシーツをマットのサイズに合わせて挟むことができるのですが、マットの端にある穴にペットシーツの端をぎゅっと入れ込むだけで完成するお手軽な仕様です。

 

段差を頑張って乗り越えようとするうちに、トイレが我慢できなくなってその場でしてしまうような老犬にとっては、飼い主さんによる手伝いがなくても自分でトイレスペースに行きやすくなるはずです。

 

さらには、トイレスペースを広げたいけれど、ただペットシーツを敷くだけだとずれてしまう、ガムテープでくっつけるのは大変だし、掃除がしにくいといった悩みも解消しやすいでしょう。

 

もしも床と平面的になりすぎて老犬にとってトイレスペースが判断しにくくなるようなら、トイレマットに挟み込んだペットシーツの上から、でこぼことした感触が足に伝わりやすい100均の滑り止めシートをカットして置いてあげることをおすすめします。

 

おむつ・尿取りパッド

 

犬用のおむつやマナーベルトを使う時には、横漏れ防止のギャザーをしっかり立ててから老犬に装着しましょう。

 

この一手間を忘れると、せっかくオムツを着けていても、排尿した時に横から漏れてしまうことがあります。

 

また、装着後は足周りとお腹周りがきつくなりすぎて、老犬の足の動きを邪魔したり、擦れによる痛みを与えないよう、飼い主さんの人差し指と中指2本分くらいがスッと入るくらいの余裕があることを確認してください。

 

人間用のおむつを使う場合は、2足歩行の人間と4足歩行の犬との違いから、お腹周りや足周りのフィット感が異なることも多いため、擦れが起きやすい内股やお腹はこまめに確認し、ずれてくるようなら犬用のおむつサスペンダーを使うのも良いでしょう。

 

1回の排泄量が多い大型犬の場合は、おむつ1枚だけでは吸収性能が追いつかないこともあるので、内側に1枚尿取りパッドを挟む工夫もしてみてください。

 

犬用歩行介助ハーネス

 

後ろ足がふらつく、立ち上がりに時間がかかる、寝たきりで姿勢を変える時に持ち上げるのが大変といった時に活躍するのが、犬用の歩行介助ハーネスです。

 

・前足用

・後ろ足用

・四肢用

といったように、どこを支えたいかによって装着部位の違うハーネスが選ぶことができ、よりしっかりと支えたい時に使うものほど布地の幅が広めになっています。

 

老犬の場合はお尻や後ろ足付近から筋肉が落ちてきてふらつくことが多いので、最初は後ろ足用のハーネスから使うと良いでしょう。

 

前のめりな姿勢になりやすければ、前足と後ろ足どちらも装着できる四肢用が良いですね。

 

多くは穴に足を通してマジックテープで止めるだけ…といった簡便な作りになっていますが、複雑な作りのものは装着するだけで飼い主さんが大変な思いをするので避けてください。

 

寝たきりの犬は、べストタイプの前足付近を支えられるハーネスを装着しておくと、日中こまめに犬の姿勢を変えなければいけない飼い主さんの負担を減らしてくれます。

 

歩行器・車椅子

 

歩行器や車椅子は自作することもできますが、体に合わないものだと使う犬が痛みを感じたり、違和感から嫌がることがあるので、可能であれば(セミ)オーダーメイドのものを作成することをおすすめします。

 

最初に乗せたばかりの頃は使い方がわからず犬も戸惑ってしまうので、おやつで誘導してあげたり、明るい声でほめて楽しい気持ちにさせてあげましょう。

 

車椅子に乗せた時に足が地面で擦れて足先をケガしてしまうようであれば、足を置くことができるスペース(補助具)をつけてあげるか、犬用の靴下をはかせて保護してください。

 

歩行介助ハーネスだけではうまく歩けなくても、車椅子や歩行器を使えば犬の体を全体的に支えてくれるので、筋力がかなり落ちた犬でも「自分で歩いている感覚」を得やすいです。

 

また、自然と犬の体が起きた状態をキープできるため、食事や飲水をさせやすく、誤嚥につながりにくい姿勢となります。

 

U字型クッション・ビーズクッション

 

自分で姿勢を保ちにくい寝たきりの犬の場合、体が沈み込みやすい大きめのビーズクッションに犬を乗せ、顎を置きやすいU字型のクッションで頭を持ち上げてあげると、飼い主さんが手放しでも伏せの姿勢をとらせることができます。

 

横向きの丸まった姿勢でばかりいると、背中やお腹の柔軟性が減り、食事姿勢も取らせにくくなって介護の方法に制限ができる場合があるので、犬に1日数回ほど体を伸ばした姿勢を取らせることも、介護のしやすさをキープするためには大切です。

 

ただし、ビーズクッションは柔らかな感触を犬が気持ちいいと感じやすい一方で、接する面に熱がこもりやすくなります。

 

夏場は特に、

・タオルで包んだ保冷剤を間に挟みこむ

・冷房で室温をしっかり下げておく

・使用時間は短時間に限定する

といった対策をとって使う必要があります。

 

床ずれ予防マット

 

寝たきりの犬が同じ姿勢で寝続けていると、体の一部分だけが圧迫され続けて床ずれが起きやすくなります。

 

そのため、床ずれ予防マットを使って、体の圧が分散されるようにしておくことが重要です。

 

最近では、やや硬めの高反発マットタイプの方が体圧分散力に優れているというデータがあり、汚れた時もやや荒い内部の網目部分が洗った時に乾きやすいので、低反発マットタイプよりも使いやすさの面で選ばれる傾向にあります。

 

床ずれ予防マットを使うときには、犬の体とマットの間に毛布などを挟んでしまうとせっかくの体圧分散力が低下してしまうため注意しましょう。

 

もしも寒さ対策で毛布を使ってあげたい時には、体の上にかけてあげる形で使用することをおすすめします。

 

老犬介護をする時の心構え

飼い主さんひとりで抱え込みすぎない

 

介護に役立つグッズを使用すること以外にも、老犬介護に向き合う飼い主さんの気持ちが落ち込みすぎないように、ほどよく気分転換することも忘れないようにしましょう。

 

・老犬介護対応サービスを使って負担を減らす(預かりサービスの利用)

・老犬の認知症などに悩んだら動物病院で相談し、薬やサプリメントの処方をしてもらう

・家族や友人と話して、辛い気持ちを溜めこみすぎない

・介護は家族で分担して、ひとりだけに負担がかかりすぎないようにする

 

介護は家族だけでしなければいけないものではありません。

 

動物病院や老犬介護施設、ペットシッターなど、使えるサービスを活用したり、相談しやすい専門家のアドバイスを得て、より良い介護を目指しましょう。

 

コストをかけるところと削減するところを決める

 

老犬の介護をしていると、介護グッズを購入や動物病院への通院、一時預かりサービスを利用することで、思った以上の費用がかかってしまうこともよくあります。

 

ここで大切なのは、いま老犬介護に向き合う家族が1番必要としているものは何かを整理し、費用をかける部分と、節約する部分を分けておくことです。

 

気分転換の時間のため、一時預かりサービスを利用する回数を増やしたいのであれば、おむつをコストパフォーマンスの良い人用のものを使って消耗品費を削るなど、バランスを考えてみてください。

 

まとめ

老犬介護を行う時には、これまでの犬との暮らしではまったく必要のなかったサポート、アイテムが必要になり、戸惑う飼い主さんも多いかもしれません。

 

しかし、いざ介護に向き合う前から使えるアイテムを知っておけば、本当に必要になった時に「そういえば!」と思い出せることもあるでしょう。

 

愛犬がシニア期に突入し始めた飼い主さんは、ぜひ手助けがいらないうちから、老犬介護のことを考えてみてくださいね。

桐村 佳那

■資格
動物看護師統一認定機構認定動物看護師
愛玩動物飼養管理士1級
ホリスティックケア・カウンセラー

 

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