動物看護師が教える老犬期のサイン一覧!生活への影響や対処法を紹介
まだ若い!と思っていても、いつのまにか始まっている愛犬の老化。老犬になるほど気になる症状は現れやすいですが、いつから老犬として扱うべきなのか、加齢による変化にはどう対応してあげればいいのか分からない飼い主さんもいるはず。
そこで今回は、犬のシニア期を示すサインや、老犬に対して飼い主さんがしてあげられることをご紹介します。
もくじ
犬のシニア期っていつから?
犬の年齢を人間に換算してみよう
近年、犬の平均寿命は延び続け、犬全体で計算してみても約14~15歳が平均的な数字だとするデータも登場しています。
1年、3年、5年…と愛犬と長く生活を共にしていると、「うちの子って人で言えば何歳くらいなんだろう?」「あとどのくらいの時間を一緒に過ごせるのかな?」と気になる飼い主さんも多いですよね。
犬にも人と同じように「ライフステージ」と呼ばれる生涯を段階別に区切った考え方があり、大きく分けると、
・子犬期(成長期)
・成犬期(成熟期)
・老犬期(老齢期)
の3つの過程があります。
ところが、犬の体格や犬種によって、それぞれ何歳からが各ステージに当てはまるのかは大きく異なります。
犬の年齢換算の方法にはさまざまな考え方がありますが、例えば犬が2歳を迎える頃は、人に換算すると約24歳となり、心も体も成熟する時期だと考えられているわけです。
そこからは、
・小型犬:1年に約4歳ずつ
・中型犬:1年に約5歳ずつ
・大型犬:1年に約7歳ずつ
数を足していく計算方法がよく知られていて、小型犬や中型犬であれば約7~8歳から、大型犬であれば約5~6歳からが「シニア期の始まり」だとされています。
愛犬は元気いっぱいなのに「シニア期」?
しかし、飼い主さんの中には、年齢を計算してみて「老犬と言うにはちょっと早すぎない?」と感じた人もいるのではないでしょうか?
それもそのはずで、先ほどの計算式を使ってみると、小型犬・中型犬の7歳と、大型犬の5歳では、人にしてみると「約44歳~49歳」と、まだまだ働き盛りの年齢にあたります。
愛犬を見ても、毎日元気にお散歩に行っているし、ご飯もモリモリ食べるし、何ならいたずらだってする!と「老犬」を感じさせない子も多いことでしょう。
実は最近のライフステージの区分では、成熟期(成犬期)と老齢期(老犬期)の間に「熟年期(いわゆる中高齢期)」を挟む考え方が主流になってきており、この熟年期を「シニア期の始まり」と捉えることが増えました。
そして、老齢期(本格的な老犬期)は、
・小型犬:約12歳から
・中型犬:約10歳から
・大型犬:約8歳から
と考える方が、見た目や行動の変化が飼い主さんにも分かりやすく、受け入れられているようです。
けれども、ここで考えておかなければいけないのは、老犬期の変化は外から見て分かるものだけではないということです。
中高齢期が間に挟まったとしても、小型・中型犬の7歳や大型犬の5歳が「シニア期の始まり」と言われ続けているのは、人で言う「生活習慣病」が気になりだす年齢層に当てはまるからということも理由の1つ。
年齢を重ねて老犬期に近づくほど、見た目や普段の行動に変化が現れるのはもちろんですが、体の内部にひっそりと訪れる変化にも配慮が必要な時期がやってきたというわけですね。
老犬期に見られる体の変化と生活面への影響
外から見て分かりやすい老犬の体の変化
老犬になりつつある愛犬の変化を実感する時は、やはり見た目や行動に変化が現れた時でしょう。
飼い主さんでも気づきやすい老犬期のサインには、
・被毛に白髪が増える、毛色が薄くなったように感じる
・被毛がパサついたり、毛量が減ったように感じる
・皮膚にハリがない
・睡眠時間が増えて、遊びや散歩を長時間できなくなってきた
・動きがゆっくりになって、つまずくことやふらつくことが増えた
・トイレの失敗が増えた
・太りやすくなった
・お尻周りが小さくなって痩せてきたように見える
・名前を呼んだり、声をかけても反応が鈍い
・目が白っぽく濁って見える、目やにが出ることが多くなった
・口臭が増えた
・イボやシミができ始めた
といった変化があります。
人にも共通する飼い主さんが想像しやすい老化のサインはもちろん、喜怒哀楽の見せ方や、筋力の低下によって起こるこれまでとは違う行動の変化などが特徴的ですね。
こういった老化のサインが現れるのは、体の中で生まれる活性酸素によって、細胞や遺伝子(DNA)へのダメージが繰り返されることが原因です。
活性酸素はストレスや汚染物質にさらされることで多く発生するとされていますが、そもそも呼吸をするだけでも生まれるものなので、生活でどんなに気をつけようとしても、活性酸素の発生や細胞へのダメージをゼロにすることはできません。
つまり、「一生老いることのない犬や人はいない」ということです。
本来、犬も人もこの活性酸素を抑える仕組みが体には備わっていますが、年齢を重ねるにつれてこの仕組みが衰えたり、活性酸素が発生する量が増すために、老化のサインが目に見えやすくなっていきます。
見た目では分からない老犬の体の変化
細胞へのダメージが加わり続けるということは、体内にある臓器にも影響を与えているということです。
犬も人も、体の中にある心臓や腎臓、肝臓などの臓器は、細胞がたくさん集まって作られています。
そのため、ぱっと見た様子で「とっても元気!病気もないし」と飼い主さんが思っていても、老犬期に近づくにつれて細胞へのダメージが蓄積し、目に見える症状としては感じとれないレベルで内臓機能が低下してしまっている可能性もあるのです。
細胞の分裂をコントロールする遺伝子が傷つけば、腫瘍の発生にも関わります。
「犬が高齢になってくると病気が増えるので注意しましょう」と言われるのは、まさしく体の老化による身体機能の低下が大きな原因の1つだと言えるでしょう。
犬を取り巻くサービスや獣医療、家庭での生活環境が良くなっている一方で、平均寿命が延びて老犬と呼ばれる犬が増えてきた影響から、
・心臓病(僧帽弁閉鎖不全症など)
・慢性腎臓病
・がん(悪性腫瘍)
など、死因を左右するような老齢性の病気が増えたのも事実です。
また、認知機能不全症候群(いわゆる認知症)による老犬介護の問題がどんどん表に出てきはじめたのも、インターネットやSNSによる情報の普及以外に、長生きできる犬が増えたことが理由の1つとされています。
老犬期の体の変化は日常生活に変化を与える
老化が始まると、目に見える変化、体の中で少しずつ進む目には見えない変化が起こり、飼い主さんと愛犬の普段の生活にも大きな影響が現れていきます。
例えば、足腰の筋力が低下したり、視力や聴力などの五感の機能が弱まることで、ふらついて転んだり、危険を察知するのが遅れてケガをすることが増える可能性があります。
また、老齢性の病気は治療が長期間にわたって(時には一生に渡って)続くようなものが多く、
・完治が望めないことがある(一生その病気と付き合っていく)
・動物病院への通院や入院の頻度が増える
・治療のために飼育に必要な費用が増える
などによって、飼い主さんの生活時間を圧迫してしまったり、家計への負担に加え、愛犬の病気に対する不安や心配ごとが尽きないことも多いでしょう。
たとえ病気がなかったとしても、老衰による介護が必要になることもあり、これまで以上の繊細なお世話が求められます。
そのため、シニア期に突入する頃からできる限り、「愛犬の老化を遅らせるケアを行い、老化に対応した暮らしに変える」ことを意識していきましょう。
家庭で老犬の体の変化に対応する方法
老化に合わせた体のケアを行う
愛犬に老化のサインが見られたら、シャンプー・カットなどを含む、お手入れの仕方を見直してみてください。
涙や目やに、耳垢などの分泌物が出やすくなったり、舌の動きの低下や歯周病によって食事や飲水がしづらく、口周りが汚れやすいようであれば、1日に行う顔周りのお手入れ回数を増やしてみましょう。
また、皮膚が乾燥しやすく、フケが出やすいようであれば、保湿力が高い犬用シャンプー剤に変更したり、保湿剤を塗布する一手間を行ってあげるのもおすすめです。
動物病院では、皮膚が乾燥する原因に合わせて薬用シャンプーや保湿剤を処方してくれるので、気になる場合は相談してみると良いですね。
そして、足腰が弱ってきた老犬や、心臓に病気を抱えていて負担をかけたくない老犬には、自宅でシャンプーやカットなどのお手入れをする時の一工夫も必要です。
・短時間で終えられるように必要な物品は始める前にそろえておく
・季節に合わせて事前に浴室を涼しくしておく/暖めておく(急激な血圧や体温の変化を防ぐ)
・シャンプーとカットを別日にして拘束時間を短くする
・日頃からブラッシングや部分洗いで汚れを溜めないようにする
・汚れやすい部分はあらかじめ被毛を短めにカットしてお手入れしやすくしておく
愛犬の体を清潔に保つことは、病気を防ぐためにも大切なことです。
さらに、老犬に出やすい「ニオイ」は、皮膚のコンディションを健康的に保つことで改善されることも多いでしょう。
ただし、健康状態によっては自宅でのトリミングよりも動物病院付属のトリミング施設などで対応してもらった方が短時間で終わり、なおかつ体調に異変があった場合はすぐに対応してもらうことができて犬の負担が減ることもあるので、持病がある場合は獣医師と相談してください。
老犬が過ごす自宅の環境を整える
老犬の目が見えなくなってきたり、足の踏ん張りが効かなくなってきたら、ケガを予防できる室内環境に変えてあげましょう。
老犬が過ごすスペースの床には滑り止めとなる敷物を全面に敷いたり、滑り止めコーティングを行います。
老犬が嫌がらなければ、犬用の滑り止め靴下も手軽に活用できて便利です。
そして、犬の目線の高さにある家具などの障害物をなくすか、角や出っ張り部分にはぶつかってもソフトな当たり心地になるようカバーをしておくことをおすすめします。
トイレの失敗が増えてきた時には、老犬がゆっくりトイレに向かっても間に合うよう、トイレスペースを寝床に近づけてあげたり、トイレの前の段差を極力低くして乗り越えやすくしてみてください。
寝床に関しては、暑さや寒さがこたえやすい老犬が、年齢を重ねて長くなることが多い睡眠時間を快適に過ごせるよう、
・暑さと寒さを感じにくい場所に設置する(空調が直接当たらない、窓際は避けるなど)
・家族の存在は感じられるが、静かに寝られる場所を選ぶ(出入口や食卓、テレビの近くは避ける)
・季節に合わせて冷感・温感素材のベッドを選ぶ
・清潔さを保つためにベッドは定期的に交換するか、こまめに洗う
といった対策をとっておきましょう。
もしも足腰の筋力が衰えて、起床時の起き上がりや立ち上がりがしづらいようであれば、体が深く沈みこむフカフカすぎるベッドよりも、やや硬めの素材のベッドの方が快適に過ごせることもあります。
老犬に半年~1年に1回の健康診断を受けさせる
シニア期に突入したら、愛犬が元気そうに見えても体の中の変化を確認するために、
・血液検査
・尿検査
・レントゲン検査
・超音波検査
などを含む健康診断を毎年行っておきましょう。
人間ドックや会社の健康診断などを年に1回受けるという人は多いですよね。
しかし、犬の場合は小型犬であっても1年に約4歳ずつ身体の加齢が進む計算になるため、「1年に1回の健康診断=人の加齢スピードに当てはめると4年に1回の健康診断」という感覚になってしまいます。
そのため、人の中高年期にあたる熟年期は少なくとも1年に1回を目安にしつつ、老齢期(本格的な老犬期)に突入する頃には、できれば「半年に1回=人の加齢スピードに当てはめると2年に1回」の健康診断の頻度で行うことをおすすめします。
「でも、いつも異常は見られないし…」と思う飼い主さんもいるかもしれませんが、愛犬の「ふつう」の体の様子を数値や画像として記録しておくことができれば、本当に体調が悪くなった時、「この数値や画像の異常は元からか?」「それとも体調悪化の原因なのか?」を診断しやすくなるメリットが生まれます。
また、数値や画像に異常が現れた時、「この異常はいつからなのか」「どれくらいのスピードで進行しているのか」を判断し、治療に役立てていくことができます。
何よりも、病気の早期発見ができれば治療の選択肢が増え、愛犬の病気が完治する確率が上がったり、病気の進行を食い止めて元気なままで過ごせる時間が増えるかもしれません。
「年のせい」だと思っていた老化のサインも、もしかしたら病気が原因で現れた症状であるかもしれないのです。
将来の老犬介護や病気の看護に備えておく
老犬の体の状態によっては、飼い主さんが病気の看護をしたり、介護を行う必要が出てくるかもしれません。
いざ必要になった時に焦るよりは、「もしかしたらうちの子にもその時がやってくるかも!」と準備をしておいた方が飼い主さんの生活や心に負担をかけません。
・犬の体の仕組みを知っておく(病気になった時に獣医師の説明が理解しやすい)
・老犬の看護や介護に活用できるアイテムを知っておく(介護用ハーネス、介護マットなど)
・老犬向けのサービスを展開する会社や施設が近くにあるか調べておく(家族だけでのお世話に限界を感じた時のため)
・愛犬用貯金を始めておく(費用の問題でサービスや医療が受けられない問題を避ける)
・万が一飼育できなくなった時の託す相手を探しておく(特に単身世帯や高齢の飼い主さん)
普段利用して愛犬が慣れ親しんでいるペットホテルやトリミングサロンも、老犬になった時にそのまま利用し続けることができるのかなどを調べておくと良いですね。
まとめ
どんな老化のサインが現れるかは、犬も1頭1頭違うため、「絶対にこれ!」ということは言えません。
しかし、老化によって起こるかもしれない症状を1つでも多く知っておけば、「愛犬のために何ができるだろう?」と飼い主さんが思いをはせるきっかけになります。
せっかくなら、愛犬には歳を重ねても、お家で快適にのんびりと過ごしてほしいもの。
平均寿命が延びたとは言ってもやはり人とは違う存在のため、長生きできる年齢にも限界はあります。
愛犬が寿命を全うできるよう、老化に合わせた暮らしを準備してみませんか。