動物看護師が教える!犬と暮らす家庭に必要な防災への意識
「もしも災害に遭ったら犬と一緒にどうやって避難するか」を真剣に考えたことはありますか?犬が一緒となると、事前の準備がなければ、人だけが避難する時以上にトラブルに見舞われることがあります。いざという時のためにしておくべき準備や犬のケガへの応急処置、用意すべき防災グッズについてを理解し、今日から対策を始めましょう。
もくじ
犬と暮らす家庭が被災すると大変!
地震や台風、洪水(大雨)による被害など、日本で暮らしているとどの地域でも何らかの災害に遭うリスクは常に潜んでいますよね。
いつもとは違う非常事態には、飼い主さんだけでなく、一緒に暮らす犬も恐怖や不安でパニックになってしまいがちです。
また、被災時に自宅にいることが危険であれば、地域の避難所などを活用することになります。
しかし、皆さんが利用する地域の避難所は、果たして犬(ペット)を受け入れてくれるでしょうか?
また、もしも愛犬と一緒に避難所を活用することができない場合、犬はどこで飼い主さんを待てば良いのでしょう?
万が一の被災時に冷静に対処し、愛犬とともに生き延びるために、どんな準備をしておけば良いのかを確認してみましょう!
災害に遭った飼い主と犬にふりかかる問題
災害時は人が優先され、ペットへの対応は後手に回る
避難の仕方や復旧までの生活を考える時に、飼い主が愛犬の安全を確保する方法を理解したり、防災グッズを揃えておかなければいけない理由として、災害時は「人命救助」が優先されることがあげられます。
人命救助ができる確率が高いとする「70時間ルール」の元、災害発生後すぐは命の危険がある人を救助することが第一となるのです。
東日本大震災が起きてからは、「VMAT(Veterinary Medical Assistance Team:災害派遣獣医療チーム)」と呼ばれる組織も結成されるようになり、
・災害直後のペットの救護(応急処置や搬送先の案内)
・ペットと人の咬傷事故
・動物由来感染症(ズーノーシス)の問題
・野生動物とペットの問題(繁殖やペットの放浪など)
・避難所で暮らすペットに関する相談窓口の設置
などの対応が行えるよう活動が広まってきていますが、まだすべての自治体にあるわけでもなく、VMATチームが現地に入るまでに時間がかかってしまうケースもあります。
そして、地域にある動物病院も「被災した側」の立場であるため、物資やライフライン、人手不足などがあれば、愛犬のケガや急な病気、救命に対応できない現実も考えられます。
犬のための支援物資も人より遅く到着することが多いため、飼い主がどのように愛犬の命を守り、安全に避難を行えばいいのかを知っておくことがとても大切です。
犬との避難生活の方法は6パターン
もしも自分が住む地域が災害に見舞われた時には、まず何よりも命を守るために「避難」をしなければいけません。
ここで言う避難とは、避難所へ行くことや単純に逃げることだけではなく、「難を避けて身の安全を確保すること」を意味します。
そのため、どんな災害が襲いくるかによって、
・水平避難:より離れたところを目指して遠くへと逃げること
・垂直避難:より高いところを目指して上へと逃げること
のどちらを選ぶべきかを、飼い主さんが状況に応じて判断しなければいけません。
その上で、犬と一緒に暮らす家庭では、災害が通り過ぎたり、生活が安全に送れるよう回復するまでの手段として、6つの避難生活の選択肢も生まれます。
1.飼い主も犬も自宅で避難する(在宅避難)
2.飼い主も犬も避難所の中に入って避難する
3.飼い主さんは避難所内にいるが、犬は避難所の外で飼育する
4.飼い主は避難所にいて、犬は自宅で飼育する
5.飼い主も犬も車中やテントの中で避難する
6.飼い主は避難所にいて、犬は施設や知人、親戚などに預ける
本来の理想を言えば1もしくは2の、飼い主さんと犬が一緒の室内で生活を続けられる「同室避難」が理想ですが、現実では難しいケースもよくあります。
地域の避難所を利用する場合、数時間から1日ほどで済む一時的な避難であれば、周囲の人の協力などがあって、犬も一緒に連れて入ることが許されることもあるかもしれません。
しかし、避難所生活が数日から数週間にわたるようなケースでは、避難所にいるすべての人たちの生活環境や公衆衛生が優先され、3〜6の選択肢しか取れないことも多いため、愛犬の行く先について事前の準備が必要になるのです。
災害発生時に飼い主がとるべき犬への対応
自宅で愛犬と一緒にいた場合の避難行動
被災時に飼い主さんが愛犬と自宅に一緒にいたのであれば、まずは自分と愛犬の身の安全を確保しましょう。
特に地震の際は物が落下したり、大きな家具が倒れてくる危険性があるため、よく避難訓練で行われるように、揺れが収まるまではテーブルの下などに移動することが大切です。
ただし、犬がパニックになって飼い主さんを咬んでしまったり、抱っこをしても腕から暴れて飛び出してしまうことも考えられます。
そのため、
・近くにバスタオルなどの布類があれば愛犬を覆うようにして抱える
・首輪に片方の親指をかけた状態で抱き抱え、犬の行動を軽く制限する
など、とっさの飛び出しを抑えられるようにしておくことをおすすめします。
中型犬や大型犬で抱き抱えるのが難しい時は、そばにリードが置いてあると、装着して自宅の避難スペースに連れて行きやすくなります。
(※ただし、身の危険を感じる時はリードの装着よりも、物の落下や倒壊の被害に遭わない場所に移動することを優先してください)
地震の揺れが収まったり、水害による道路状況などを確認できたら、事前に用意しておいた防災グッズなどを持って
・避難所へ向かう
・屋外へ退避する(地震など)
・高台へ避難する(水害など)
といった移動を始めましょう。
災害発生時に愛犬がケガをした時の応急処置
万が一自宅にいた時や、避難をする最中に愛犬がケガをしてしまったら、飼い主さんが応急処置をしてあげる必要があります。
よくあるのは、パニックになった犬が室内で暴れた時に爪を引っかけて折ってしまったり、散乱したガラスや瓦礫などを踏んで切り傷を作ってしまうケースです。
出血している時には、清潔なガーゼか、なければ飼い主さんの衣服やタオルなどの布類でも構いませんので、出血部位を数分間は続けて圧迫し、止血しましょう。
犬が転倒して体を強く打ち付けていたり、手足の骨折が疑われるような場合は、できるだけ安静を保てるようにハードキャリーや組み立て式のケージに犬を入れます。
無理に抱っこをしたり触ろうとすると、犬が痛みを感じて余計に暴れ、内臓に受けたダメージや骨折の程度が悪化する可能性があるので避けてください。
応急処置をした後は避難行動を開始することを優先し、安全が確保できてから、治療をしてくれる獣医師を探しましょう。
飼い主さんが不在で犬だけが自宅にいた場合は?
飼い主さんが仕事やお出かけなどで自宅にいない時には、犬だけが室内に取り残されてしまいます。
この場合、飼い主さんはできる限り早く帰宅することを目指し、愛犬と避難することが大切です。
しかし、場合によっては公共交通機関が停止していたり、道路の混雑・走行できない状況により、帰宅するまでにかなりの時間を必要とする可能性もあるでしょう。
こういった時には、事前の準備が愛犬の命を救うかもしれないので、日頃から出かける前に室内を整えたり、近所に住む親族や知人と一緒になって対策しておく必要があります。
災害に遭う前に飼い主が準備しておくべきこと
1.自宅周辺のハザードマップを確認しておく
どんな災害が起こる可能性があるのかは、地域によって違いがあります。
そのため、まずは地域ごとのハザードマップを確認し、
・自宅周辺で起こる危険がある災害の種類
・利用できる避難所の場所
・自宅から避難所までのルート
を調べておきましょう。
避難所にも、緊急的に使用される場所と、長期の滞在が必要になった時に使用される場所では異なる場合もあります。
日頃、愛犬とのお散歩をする時に避難所までのルートを組み込んでおくと、いざと言う時に飼い主さんは「どこにあるんだっけ!?」と焦らずに済みますし、犬も「知らない道を行くのが怖い!」とパニックになる危険性が減るためおすすめです。
また、避難所を愛犬と一緒に活用できるのかどうかは地域によって対応が異なるため、併せて確認をしておきましょう。
2.犬が避難所を利用できない時の対策を立てておく
もしも愛犬が飼い主さんと一緒に避難所を活用できないのであれば、「緊急時のペットの預け先」を頼ったり、飼い主さんが犬と一緒に滞在できる避難所以外の場所を用意しておく必要があります。
災害時には動物救護所が臨時で設置される地域もありますが、基本的には飼い主さんの「自助(自分で守ること)」が必須です。
・居住地が異なる家族や親戚
・友人
・飼い主さん仲間
などと日頃から相談・協力し、助け合いグループを作っておくとスムーズな避難につながるでしょう。
3.愛犬の予防医療や基本のしつけを行っておく
避難所を愛犬と一緒に活用できるかどうかは、日頃の飼い主さんのマナーや愛犬の健康管理にかかる部分も大きいものです。
・伝染病予防ワクチンの接種
・ノミやマダニなど寄生虫の予防
・避妊/去勢手術
・トイレトレーニング(決まった場所でトイレができる)
・クレートトレーニング(ケージに入ることに慣れている)
・社会化トレーニング(他の人や犬がいても平気、警戒吠えや攻撃行動をとらない)
こういったことができていて、普段から近所の人にかわいがってもらっている犬は、避難所でも受け入れてもらいやすくなります。
一方で、トイレマナーが悪いと周囲の人と衛生面に関するトラブルが生まれたり、ケージに慣れていない犬では、限られた場所で過ごさなければいけないストレスによって、吠えの問題や犬自身の体調不良にもつながりやすいでしょう。
また、同じ飼い主さん仲間であったとしても、ワクチンやノミ予防をしていない犬は受け入れがたいという人もいます。
4.飼い主不在時に被災する犬のための準備をしておく
飼い主さんが不在のタイミングで災害に遭ったら、愛犬には飼い主さんが帰宅するまで生き延びていてもらわなければいけません。
地震などへの対応には、人の命を守り、室内の破損を防ぐためにも役立つ
・家具の転倒防止措置
・戸棚の開閉を抑えるグッズの取り付け
・室内の整理整頓
・ガスの元栓を締めてから出掛ける
を普段から意識しておくと良いですね。
停電が起きると、夏であれば犬に必須のエアコンが切れてしまうリスクがあります。
もしものために、愛犬の飲み水はたっぷりと用意しておきましょう。
また、住宅環境によっては室内のドアに隙間を作って、少しでも空気の通りを良くしておく方が愛犬が助かる可能性もあるでしょう。
ただし、夏はそれでも熱中症による命の危険が愛犬を襲います。
この時には周囲の人とのお付き合いがモノを言うことがあり、連絡が取れる近所に住む親戚や飼い主さん仲間などに、「身の安全が確保できていて、もし行けるようなら…」と愛犬の様子を見に行ってもらうのも1つの方法です。
緊急を要する場合には、「窓のガラスを割って入って」と伝えて、愛犬の命を助けてもらうことをお願いしなければいけない状況もあり得ます。
愛犬のために準備したい防災グッズ
犬用キャリー・簡易ケージ
一緒に避難する時は、災害が起きた時には足場が悪かったり、ケガの原因となる物が道路に落ちている可能性も高いため、小型犬であればキャリーに入れて運ぶ方が安全です。
ハードキャリーや折りたたみケージがあれば、狭さは解消できないものの、避難所の中に愛犬が一緒に入れない時の屋外飼育時や、避難所内で犬が過ごす場所として活用することもできます。
また、自宅で避難を続ける時にも、室内が安全に片付くまで、愛犬にキャリーの中で待っておいてもらうと安心です。
犬のための食事・水・薬・食器
人の防災グッズでも、支援物資を受け取ることができるまでの平均的な目安として、最低限「家族の人数×約3日分」の食料や水の備えが必要だと言われています。
これは犬も同じですが、人に必要な物資よりも手に入ることが遅くなるリスクが高いペットフードならなおのこと、最低でも約5日~1週間分ほどは多めに備えておく必要があります。
中でも、どんなご飯でも問題がない健康な犬に比べ、食物アレルギーや消化器疾患などで特定のご飯しか食べられない場合は、物流が回復して手に入るようになるまでに時間がかかりやすいため、さらに多くのストックが必要です。
毎日飲まなければいけない薬も、動物病院が再び診察を受け入れられるようになるまで時間がかかるかもと想定して、余裕を持って用意しておいた方が良いでしょう。
さらには、いつもとは違う環境で飲水や食事をやめてしまう犬もいるので、水分補給がしやすく、保存期間も長いウェットタイプのフードを用意しておくと、風味につられて食べてくれることがあるので一緒に用意しておくことをおすすめします。
パウチタイプであればゴミの処理もしやすく、持ち運びもしやすいですね。
それ以外にも、普段から「これなら絶対に食べる!」というご飯やおやつがあれば、未開封の新品を非常食に加えておきましょう。
食器に関しては、落としても壊れにくく、捨てやすい紙皿を用意しておくと、食器を洗うために貴重な水を消費しなくても済みますね。
ペットシーツや防臭袋、掃除グッズ
人がトイレをするように、犬も避難中に必ずうんちやおしっこをします。
ケージの中や避難所の周囲を衛生的に保って、周囲の人と上手な関係を作るためには、
・ペットシーツ
・排泄物を捨てる袋
・トイレットペーパーや消臭スプレーなどの掃除グッズ
があると、トラブル回避に役立ちます。
中でも排泄物の臭いを閉じ込めてくれるタイプの処理袋があると、愛犬だけでなく飼い主さんのゴミの処理にも使うことができ、とても便利です。
愛犬に関する証明書や写真
愛犬のワクチンに関する証明書などは、避難所生活や誰かに預かってもらう時に必要になる場合があるため、すぐに持ち出せるようまとめておきましょう。
また、災害時には愛犬と飼い主さんがはぐれてしまい、再会までに時間がかかることがあります。
そういった時には、愛犬の首輪にきちんと鑑札や狂犬病予防注射済票をつけたり、マイクロチップを挿入しておくと、誰の犬かがすぐに分かって再会しやすくなるはずです。
なかなか愛犬が見つからない時には、愛犬が写った写真があれば捜索チラシを作成できます。
愛犬との再会時に、
・愛犬の鑑札番号やマイクロチップの個体識別番号が記載されている書類
・飼い主さんと愛犬が一緒に写っている写真
を提示できると、その犬の飼い主であることの証明がしやすくなり、スムーズな引き渡しにつながるため、こちらも併せて準備しておきましょう。
ガムテープ・油性マジック
ガムテープははがれにくく破れにくいメモ代わりとして、油性マジックは消えにくい文字を書くために重宝します。
避難所などで一時的に過ごす時には、ケージなどに「怖がりです」「愛犬は病気なのでおやつはあげないで」といった周囲の人への伝達事項を記載して貼っておくと、トラブル予防になります。
まとめ
災害に見舞われた時には人だけでも大変な思いをしますが、犬と一緒に暮らしていた場合は、さらにもう一工夫や準備が必要です。
人も犬もストレスがかかりやすく、不安で落ち着かない状況の中で冷静に対処するためには、飼い主さんがどれだけ愛犬のための準備を行っていたかにかかっています。
今日からできるもしものための準備をさっそく始めてみましょう。